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[第二部 コンテンツ]

鉱山


鉱山部門は、主として、工学系研究科地球システム工学科が教育・研究活動の過程で採取、収集してきた鉱物資源に関する標本を所蔵する。地球システム工学科という学科名は平成6年度より始まるが、この学科は資源開発工学科を前身とし、またそもそもの発祥を明治10年(1877)に設立された東京大学の理工学部採治科・工部大学校鉱山科にまでさかのぼることが出来る。創立時の学科はその後時代の要請や学問体系の変化などに対応して多少の機構改革、またそれに伴う名称変更を何度か繰り返し、今日の地球システム工学科に至っている。鉱山部門の構成母体である地球システム工学科は長い歴史を背負った古くかつ新しい学科といえよう。すなわち、標本収集の歴史は100年以上に渡ることになる。

岩石 本学科は、幾度かの学科名変更の歴史を経ているものの創立以来一貫して、鉱山開発・運営に関わる分野を教育・研究課題の一つとしてきている。この分野は、具体的には地球上に存在する鉱物(金属・非金属・エネルギー)資源の探査、評価、開発、選鉱などの研究を指す。この種の学問の特質は地球素材、特に鉱石や岩石、鉱物を研究対象として、それらを微視的〜巨視的観点から種々の方法で検討し、学問体系を構築することにある。それ故、この分野に携わる研究者にとっては、鉱石、岩石、鉱物は欠くことのできない重要な研究試料である。特に貴重な研究試料のあるものは標本として保存され、しばしば、その後の研究に活用され保存標本としての威力を大いに発揮する。そればかりではなく、標本それ自体が所有する地球的、歴史的意義や芸術性のために展示品として活用され、人の目を楽しませてくれたりすもる。これらの標本は、一般に人工的には再生不可能な物質であり、利用、消費され尽くすと地球上から消滅してしまうか、少なくとも原形を保った状態では存続不可能である。また、二度と採取不可能な標本もある。例えば、現在閉鎖されて、試料の採取が不可能な鉱山の例もある。このような意味においても、標本を良好な状態で保存しておくことは、我々のような研究分野の人間にとっては極めて重要なことである。

鉱山部門が所蔵する標本は、大半が金属鉱床の鉱石、鉱物、岩石であるが、非金属鉱床、ウラン・石炭・石油・地熱などの燃料鉱床に関する標本も含まれる。また、海洋底の鉱物資源マンガン団塊や標準化石などの標本もある。それ以外に、昔の鉱業事情を示す資料や機器類を多少保管する。整理され、鉱山部門の標本ケースに収蔵されている標本の総数は、我が国の約300の鉱山およびその近傍から採取された鉱石および岩石、鉱物などが約7000点、中国、朝鮮半島、フィリピン、マレーシア、パキスタン、南北アメリカ、オーストラリア、アフリカなどの海外の鉱山産の標本が約2000点ある。未整理の標本も多数有り、国内・外産標本それぞれ整理済み標本と同数程度ある。また、我が国の鉱山産標本のほとんどは明治〜大正時代の鉱山産業最盛期に採取されたものであり、現在そのほとんどの鉱山が閉山され、これらの鉱山からの標本の採取は不可能である。このことを考えると、現在鉱山部門が所蔵する鉱山産標本は極めて存在価値の大きなものであるといえる。また今後の研究手法の発展や研究目的の多様化などにより当然生起されるであろう学問的必然性を考慮するとこれらの標本の利用価値もまた甚大なものであることが予測される。

整理された標本の一部は、鉱床生成型、産出地域、鉱種ごとに分類され、陳列・収納ケースに収蔵されている。陳列にあたっては、鉱石ばかりではなく、母岩や関係火成岩などの標本も考慮されており、広く地質現象を把握することにより鉱床の生成機構が理解出来るように配慮されている。

鉱床生成型により分類された標本:鉱床の生成機構により鉱物資源の産状にいくつかの特徴が見いだせる。その様な理由により、所蔵されている標本の一部は、正マグマ成、カーボナタイト成、ペグマタイト成、スカルン型、キースラーガー型、浅熱水成銅・鉛・亜鉛鉱脈型、浅熱水成金・銀鉱脈型、ゼノサーマル鉱脈型、黒鉱型、斑岩型、堆積成、変成/熱水変質の鉱床生成型に分類され、陳列ケースなどに収蔵されている。鉱床の生成様式と産出鉱種や鉱石の組織などの関係が容易に理解出来るようになっている。付表に各鉱床型の代表的な標本の産出地名(鉱山名)を鉱種(鉱物種)とともに示す。正マグマ成鉱床は我が国には少ないこともあり、この型の本邦産鉱石標本は比較的少ないが、その中で兵庫県夏梅鉱山産ニッケル鉱石は我が国を代表するものである。一方、海外、特にカナダやアフリカなどにはニッケル、白金、クロム、ダイアモンドなどを産するこの型の鉱床が多数存在する。アフリカ、ボツアナのキンバライト(ダイアモンドの源岩)などを所蔵する。希土類元素、ニオブ資源の供給源として重要なカーボナタイト成鉱床の産状は我が国においてはいまのところ報告が無い。カナダやアフリカ産のニオブまたは希土類元素を含む鉱石標本を所蔵しているに過ぎない。国内に産状が認められないもう一つの鉱床例として、斑岩型鉱床がある。このタイプの鉱床は銅やモリブデン、金を産出し、特に銅の産出量に関しては世界の大半を占めることで知られている。環太平洋地域の沿岸(島弧も含む)沿いなどに産することでも有名であるが何故か日本列島には分布しない。アメリカ、カナダの西海岸沿いやフィリピン、マレーシアの鉱床産の標本を多量所蔵する。一方、浅熱水成銅・鉛・亜鉛や金・銀鉱床、黒鉱型鉱床は我が国においては極めて豊富であり、所蔵する本邦産鉱石標本のほぼ80%はこれらのタイプの鉱床から産出されたものである。現在、これらの標本を産出した鉱床のほとんどは閉鎖されており、稼鉱中の鉱山はほとんど無い。鹿児島県菱刈鉱山は現在活動中の鉱山のなかで我が国を代表する鉱床であり、金品位が高い(写真上:研磨鉱石写真)ということと金埋蔵量が多いということで世界的にも有名である。また、銅、鉛・亜鉛、タングステンを産出するスカルン型鉱床、銅を産するキースラーガー鉱床、銅、錫、タングステン、銀を産するゼノサーマル鉱脈型鉱床なども本邦ではよく知られており、これらの鉱床から産する鉱石や母岩の標本も比較的多量所蔵されている。

産地により分類された標本:ここで言う産地とは、ある特定の鉱山またはある限られた地域を指す。産地ごとに標本を分類・整理することにより、その地域の地質・鉱床学的特徴を概観することを目的としている。国内鉱山の例として、埼玉県秩父鉱山およびその周辺の鉱石、スカルン、母岩、関係火成岩などの標本がそれぞれの位置的関係がわかるように陳列されている。標本の配置から鉱床の生成機構が推察出来るように工夫されている。マレーシア、ボルネオ島のマムート斑岩型銅鉱床の標本も鉱石と母岩が系統的に採取され、鉱石の特徴や、母岩の変質作用と鉱化作用の関連性が理解出来るようになっている。この他にも海外の標本で国別に整理されているのが多い。韓半島(韓国と北朝鮮)、中国、マレーシア、フィリピン、北アメリカ、オーストラリア、アフリカなどの標本がある。このうち中国の標本は比較的多量所蔵されており、(1) 中国各地の代表的な鉱床の標本、(2) 湖南省南嶺山脈地域の錫・タングステン鉱床の標本、(3) 雲南省各地の鉱石・岩石標本の3種類に区分されて、それぞれ収蔵されている。また、陸上産の標本に加え、少量であるが海洋産の標本、特に太平洋地域の数カ所から採取されたマンガン団塊の標本もある。

浅成金鉱石
浅成金鉱石
鉱種により分類された標本:このグループの標本は、鉱物や元素の類似性以外に、化学的性質や利用の同一性を重視して分類されたものである。以下に示すような標本を所蔵している。(1) 鉄鉱石、(2) ウラン鉱物(国内および海外産)、(3) 岩塩類、(4) 酸化鉱(国内および海外産)、(5) 紫外線照射により蛍光を発する鉱物、(6) 窯業原料鉱物・岩石、(7) 石油および油頁岩、油砂、などをそれぞれに区分して所蔵している。このうち、鉄鉱石標本は総数約1000点ほどあり、世界中の代表的な鉄鉱山産の標本が集められている。 また、本部門は特に大きな標本として、愛媛県市ノ川鉱山産の輝安鉱と別子鉱山産の銅鉱石を所蔵する。市ノ川鉱山からは1910年代に長さ60cmを超える大型の結晶が多量産出し、かなりの量が標本として世界各地に輸出された。現在、世界の大学や博物館に所蔵されている輝安鉱の結晶のほとんどはこのとき市ノ川鉱山から産出したものとされている。本部門に所蔵されている輝安鉱もその当時のものであり、短柱状、長柱状、放射状など多様な形態の結晶より成り、1m以上の長さの結晶も数本ある。別子鉱山の銅鉱石は直方体型に成型されており、重さが1トン以上もある。大きな標本のため鉱石組織を実際の路頭と同じ規模で観察出来る。巨大標本が果たす学問、教育的役割は甚大なものである。鉱山の宿命ではあるが、鉱山が次々に閉鎖されていく現状を考えると、今後の学問・教育の維持、発展ためにこのような大きな標本を所蔵することは極めて有益なことである。

表

(金田 博彰)

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