[第一部 デジタルテクノロジー]
コンピュータグラフィックス
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サラサートの壷 3次元CGイメージ注口付壷型土器
ガレクティ1号丘C-1号墓出土 B.C.1000年頃
総合研究博物館情報メディア研究室
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コンピュータグラフィックスはコンピュータの力を利用して2次元や3次元の絵や図を作り出す技術全般を指す。1960年代のコンピュータグラフィックスは、プロッタで紙の上に線画を描いたり、CRT画面上でも線画で表現するベクトルグラフィックスが主流であった。1961年にMITのIvan Sutherlandが光を感じるライトペンを用いてCRT画面上に対話しながら線画の描画を行うソフトウェアSketchpadを開発している。同時期にやはりMITでPDP-1というミニコンピュータ上で世界初のビデオゲームが開発されている。1960年代、産業界ではコンピュータによる設計支援(Comuter Aided Design)機運が高まっている。1970年代に入ると画面上の各点を光らせるか否かの制御により絵でも画像でも文字でも表せるビットマップディスプレイを持つワークステーションALTOがXEROX PARC(Palo Alto Reserch Center)で試作され、画面上のグラフィック要素を使って人間とコンピュータが対話するGUI(Graphical User Interface)も生まれた。また画面上で2次元の塗り絵ができるペイントプログラムも開発される。さらに美しい文字フォントを画面やプリンタに出力するアウトラインフォント技術も開発され、1980年代後半のデスクトップパブリッシング(DTP、Desk Top Publishing)の普及につながっていく。1970年代には半導体メモリ価格の低下とともに画面を色のついた画素で埋めるカラーラスターグラフィックスが実用になった。そして米国防総省のARPA(高等研究計画局、Advanced Research Project Agency)からの手厚い支援を受けたUniversity of Utahを中心として、3次元の表現をするコンピュータグラフィックスの研究が飛躍的に進歩する。ラスターグラフィックス研究では、光源との関係で物体の影を立体的に見せるシェーディングの技術が確立され、模様を立体の表面に転写して現実感を高めるマッピングといった技法も開発され、写真のような表現も可能になっていく。1980年代になるとレイトレーシングやラジオシティ法といったより写実的な3次元画像を作る技術が生まれる。またコンピュータが造りだした3次元画像において雲や水の流れ、雨、樹木や草花など自然現象をリアルに表現する技法、物体をブレさせて速度感を表現する方法なども発達した。1990年代には、技術は成熟し、映画産業など娯楽分野にまで広く使われるようになった。1992年ごろにはある画像が他の画像に連続的に変化していく技法であるモーフィングが効果の面白さから注目された。大きく分けて平面の世界で形が変化していく2次元モーフィングと立体が別の立体に変化していく3次元モーフィングがある。また1980年代後半から、あたかも3次元コンピュータグラフィックス空間の中に人間が没入した感じを与えるバーチャルリアリティの研究開発が盛んになった。1990年代後半からはインターネットを中心として、ネットワーク上に3次元グラフィックス空間を構築して、仮想の街やショップなどを設ける開発が盛んになっている。さらにApple社のQuicktime VRのように現実の風景や物体の外観を全周撮影し、コンピュータの中に取り込んでおき、それが仮想空間として体験出来るようなシステムも生まれてきている。
現在は、パソコンはユーザーインタフェースは基本的にGUIであり、WWWも2次元グラフィックスが基本であり、3次元グラフィックソフトウェアも簡単に使えるようになっている。家庭用ゲーム機でも3次元グラフィックスアニメーションがごく当たり前になり、身のまわりにコンピュータグラフィックスが溢れている。
(坂村 健)
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