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Stile condizionato[条件づけられた様式] これは、隷属に対してほとんど免疫を持たない学生達の若い創造性にとっては、致命的な結果をもたらすものである。 一般的に、ひとつの道を見出すまでには、長い時間がかかるものである。自分の頭で考え始めるまでには時間がかかるという意味だ。教えに条件づけられた、ほぼ不毛の様式の摂取は、若者に限った現象ではない。成熟した大人になってからも続く。 良い教師なら、生徒にあまりに確信を与えることは、避けねばならない。日常の暮らしの中で、適量の不確かさは、逆に良薬になる。あまりに確信の度が高いと、頭は、その奴隷となる。教師は、生徒に、盗みの技術を教えると良い。イタリアの手仕事の職人の間の隠語でいえば、「眼で盗め」、これである。言うまでもなく、他のより優れたアイデアを盗み取り、完壁に新しい別のものに変身させるのだ。発明は常に革新的行為である。言語の更新であり、変換と再生である。学生の義務は、教師の影を、できるだけ早くに取り除くことだ。 Spirito critico[批評精神] 批評精神とは、主題をめぐる言葉の闘いの中に味わいを捜そうとする機知に富んだ柔らかな知性のこと。批判の感覚が豊かであると同時に、かすかなアイロニーにも充ちている心をいう。 Succhiare[吸収する] 芸術を吸収すること。ファッションにとっての芸術は、砂糖をまぶしたアメ玉のようなもの。ファッション・デザイナー達は、芸術を表層的に見出した。彼等は、こぞって芸術に魅かれている。芸術の魅力を、商業上及びイメージ上に利用しようと探っている。ファッション・デザインが従いつつある芸術は、展覧会のカタログから、好い加減に模倣され、更に、ショーウィンドゥのインテリア・デザインに再利用される。芸術は、服のための背景なのだ。 文化としてのファッション。ファッションの世界は、文化に対して劣等感を抱えている。ファッション・インダストリーは、急速に財を成した分野である。今日、同業界は、経済力を有しており、コミュニケーションに大きな影響を及ぼしている。家紋をひけらかす如くに文化を購入して、教養人たることを認知されたいと望むのは、新興富裕層の持つ、典型的な劣等感から来るものである。 スペクタクルとしての芸術。情報としての芸術。ゴシップとしての芸術。ファッション・ショーに出演する芸術家達。お気に入りのデザイナーの隣りでインタビューを受ける芸術家達。 スペクタクルとしての芸術ではあるが、決して自己省察やリサーチとしての芸術ではない。消費の対象としての芸術、広告としての芸術。ファッションは、芸術の最も表面的な側面を見出した。このようにして、ファッションは、白雪姫の劣等感を明らかにしている。願いは、ファッションが応用芸術なのではなく、芸術そのものであること。ファッションは、今、美術館の中にはいることを熱望している。ファッション・デザイナーは、クリエイターと定義される。現代は、人と人の関係を編んでいくパブリック・リレーション技術の時代である。幾つもの意見を料理し、条件づけていく。 権力を示すために、あるいは広く名を成すために、芸術の世界に寄与するという考え方は、すでに太古の昔から在った。過去におけるパトロン達は、芸術を、深い関心と情熱と栄華のために保護し、育成した。今日、ファッション・デザイナー達は、芸術を搾取しようとしている。蒼白い死体を吸いつくそうとする。こうした行為が明示するのは、退行である。思考不在の、エキセントリックなイメージへの退行である。なぜなら、考えるというのは不都合なのである。考え始めると、疑問が生ずるからだ。一段の人々も、ファッション傾向の中に濃縮された芸術に喜んでいるようだ。ファッション界には、慣例を越えて進もうとする時間の余裕も欲求もない。感覚主義で充分なのだ。 Trasparenza[透明感] スアクショットの女性達が身にまとっている、コットンの軽い布の透明感。彼女達の大きなからだを何枚も重ねて包む、透明で鮮やかな色彩が作り出す繭のようなもの。光を少しだけ濾過する素材。太陽や、男達の鋭い視線から守るために、何枚かの布を身体に巻く。まるで蝶の羽のように薄い組織から成る布の重なり。そこに豊かな色と装飾が溶けていく。結果は、色彩の、構造の、全ての動きの透視図となって表れる。服はからだに沿い、身体の建築となる。こうして、観る者にイメージを与える透けた薄布は、まとう者の心に浮かぶ思いを反映した動きにつれて、大きくうねる。まどろむ記憶の中に沈む他の要素ともつれ合いながら、道をこしらえていく物語や記録や夢想。観ること、と観ないこと。視線がとどまる所の更に向こうに、何かを見抜くこと。あるいは、小さな秘密をイメージすること。 透明さは、それ自体が、すでにひとつの神秘である。何かしら漠然とした存在である。ほぼ純粋に抽象的であり、神秘の世界に、それと判らぬ形で生息している何かである。透明感は、ある物を通過してから現れる。それは動きである。奥行きを持ち、時間を所有する。ひとつの世界から、通過して現れてくる別の世界への移動は、漠然とした世界、徐々に露呈していく変化の世界、そして現実の世界をほのめかす。 透明感が品質であるような素材。例えば、日本の漆。何回も重ねられた塗り。まるで、油絵の上塗りのようなもの。素材を際立たせて、生命を吹き込む。豊かさと機能を与える。最も新しく、強い性格を感じさせる総合的な素材である。より管理しやすい素材とも言えよう。驚くほどの生命力をもった表現手段である。転換が速度の同義語である時代の象徴であり、ゆるぎない変化の時代の象徴でもある。建築における透明感は、脆さを特徴づけるものではないし、素材感の貧しさを訴えるものでもない。そうではなくて、空間と光の間の新しい関係を拓く感受性を特徴づけるものである。透明感に従事するという考え、異なる抑揚に役立つという考えは、フォルムを退行させることなしに、プロジェクトを立てることを目的とするためのものである。ひとつの空間が含む全てのエネルギーを表現する力を持つ道具なのである。 Tante[沢山] 私は、これまでに幾度となく、ひとつの歴史の中にはまり込んできた。建築家は、文字どおり、歴史を謳う者である。半袖を着た会社員には全く似たところがない。 Tokyo[東京] 動く罠。車。幼稚園。 Uccidere la fretta[急ぐことを止める] モロッコのマラケシュの市場で、かつて、ある商人が私にこう言った。「急ぐ者は死ぬ」。そのとおりである。日本でのプロジェクトを急いで進めなければならない。しかし、考える時間が持てない。考え直す時間が全くない。修正する時間がない。予定時間内で完璧に終了しなくてはならない。これを「タイミング」と呼ぶ。耳障りな言葉だ。フォルムを創る者は、プロの「キラー」でなくてはならない。何よりも、自らの性急さと、更に周囲の人々の性急さを、慈悲もなく殺せるようでなくてはならない。 Untitled[無題] 優れた題に思う。 Vecchia scuola[昔の学校] 昔の学校が博物館になる。内部の刺すような匂い。甘く射し込んでくる光。足許では、床がきしんで音を立てる。暑い。大昔の教室には、空調の設備はない。つまり、1997年の夏は、70年前の夏に等しい。海を渡って来る風は、窓に垂れた白い綿のカーテンをそよがせ、その隙間から、ほぼ色の無い空を見せる。数珠つなぎの汗が顔面を転げ落ちて、音もなく木の床に届く。各部屋には、意外な物がごまんとある。幾つもの時代が積み重ねられた品々が、正確には測り知れぬほどの数、集められて、未来の観客の視線の前に秩序立てられ、再生されるのを待っている。新しいものを追いかけねば、という不安を感ずることのない、珍しい日本の時間が、この学校の隅の方に立ち止まっている。 Vestiti[服] 身体のための衣類、運搬可能な建築が、服である。 Vicino a me[隣人] 私の周囲には、死んだ人、生きている人、各時代を生き延びた人々がいる。私は、特に、権威を持たない普通の人々の近くにいる。低い声で話す人の側にいる。なぜなら、大声で怒鳴る人は、神経に触るからだ。あまりに知性の高い人は、あまりに無知な人々と同様に、私を恐怖に包む。私は、子供や老人の近くにいる。なぜなら、彼等は、野心を笑顔でやっつけてしまう人達だからだ。私はまた、自然の近くにいる。なぜなら、私自身が動物だからだ。 What[何] 我々を取り巻く数々の物。住まいの中に、ポケットの中に、そして人間の中に溜っていく物から成る暮らし。人が語ること、語ってやらないこと。人が語らないこと、語らずにやること。誰にも知らせずに蓄え込んだ物。失くしてしまう物。他を、他者を魅き寄せるものを、運命と呼ぶべきか、あるいはデザインと呼ぶべきか。 X dati[10のデータ] 無数のデータを解決することは、考古学者の仕事であり、また建築家の仕事でもある。考古学者と建築家は、互いに似通っている。なぜなら、両方共に、時間の偉大さに、そして遺跡の大きさに魅かれるものだからだ。破片を並べ替えしたり、復元しようとしたり、オリジナルなフォルムを与えようと努めたり。従うべき物語の方向性を見つけようとする。資料データが、言葉と同様に、語りの内容に火をつけ得ないのであれば、そのデータは、大した価値のものではない、ということなのだ。 Young Lovers[若い恋人達] 群衆の視線にたじろぎもせずに口づけに没頭する若者の姿が、実に多い。愛情は大きな魔力を持っている。なぜなら、文字どおり、ある場所から別の場所へと、本人達には気づかせることなく、何なく移動させてしまうからだ。 Zorro[ゾロ] ゾロは、風に乗って、長いたてがみの白馬にまたがって逃走する黒服の仮装の英雄。強い閃光を放つ、あまりに意匠力のない刃を手に。 (矢島みゆき訳)
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