第一部

記載の世界




27b 古活字本『平家物語』(中院本)(全十二巻)
慶長年間(一五九六〜一六一五)頃
冊子装本
縦二七・二cm、横二〇・一cm
史料編纂所蔵(0178-2-1/12)

  『平家物語』は、日本の平安末期から鎌倉初期にかけての時代を描いた軍記物語。中世期に琵琶法師が曲節を付け、琵琶の伴奏で語った平曲により、広く受容された。

  近世初頭、朝鮮・西欧の技術を摂取した日本の活字印刷技術の誕生とともに、さまざまな国文学書が初めて開版され、印刷媒体での『平家物語』の受容も始まった。流布の過程で多くのテキストが生み出され、読み本と語り本とに大別されている。写本・活字本・製板本一版木印刷)を総合した国文学・書誌学の系統分類によると、さらに語り本には、琵琶法師の属した当道座組織の流派により、灌頂巻を特立させた一方流とそれ以外の八坂流の二系統がある。

  本書は八坂流系統で、公家中院通勝(一五五六〜一六一〇)の校正本を刊行した中院本の一つとされている。一方流系統の本を参照して記事の内容や順序を改作し、第四巻の「一高倉院いつくしま御さんけいの事」の詞章立てに特色があるとされている。漢字平仮名交りの木活字で、約二二×一六センチの片面に一行十八字、十行取りで印刷されている。文字の墨付きに濃淡が認められる。鋭い輪郭の鉛活字を用いた印刷工法による近代の出版物に比べ、表面の凹凸にも乏しく、やわらかな印象がある。本文に右寄せで打たれた黒丸点は、句読点。
(渡辺達郎)




【参考文献】

加藤康昭、一九七四、『日本盲人社会史研究』、未来社
川瀬一馬、一九六七、『増補古活字版之研究』上・中・下、A・B・A・J
高木市之助・永積安明・市古貞次・渥美かをる編著、一九六〇、『国語国文学研究史大成九平家物語』、三省堂



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