デジタルミュージアム3
東京大学総合図書館にある「亀井文庫」は、津和野藩主亀井家十三代当主茲明(これあき)の収集になる約二千点の洋書コレクションを母胎にしている。総合図書館の書庫のなかでとくに「文庫」の名を冠されている他の書籍群に較べ、とくに規模が大きいとは言い難い。しかし、明治初期に西洋に渡った日本人留学生が美術工芸の資料として買い集めたものであるという意味において、比類のない稀少性と歴史性を持っている。
亀井茲明は西南戦争の始まった明治10年に弱冠17歳で英国へ留学し、ロンドン大学の予科で3年を過ごしたのちに帰国。23歳で宮内省御用掛へ奉職し、明治17年に子爵位を授けられた。2年後、侍従試補官の職を辞して、二度目の西洋留学へ旅立った。師と仰ぐ西周の勧めもあって、ベルリン大学で美学美術史を学ぶことになった茲明は、新生日本における美術工芸の振興のため、日々の生活を切りつめながら、5年の留学期間中ひたすら研究資料と参考品を買い集めた。その数およそ一万六千点。総理大臣の年俸が一万円前後の時代に、総額十万円をそれにつぎ込んだといわれ、西周に「御倹約第一」と言わしめたほどであった。
「亀井文庫」にはルネサンス以降の名だたる稀覯書類もなくはないが、中核をなしているのは、美術、工芸、建築、染織、ガラス、陶器など、美術工芸に関するものである。もっとも、それらの多くは実技書に類するものであるが、なかにテキスタイルの図案集や見本帳など、大型の判型の贅沢にして高価な資料類も少なくない。また、留学先のイギリスとドイツで写真に興味を持つようになり、写真機を購入し自ら写真を撮るようになっていたこともあり、資料写真も積極的に購入ししていたようである。
事実、今回総合研究博物館でデジタル化した西洋古写真コレクションは、昭和44年に総合図書館から旧総合研究資料館美術史部門へ管理換されたもので、亀井茲明がベルリン、プラハ、イタリア諸都市(フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィア、ミラノ、ピサなど)への旅行の途次に買い求めた観光写真と美術作品写真からなっている。これらは観光地や博物館などで記念品として販売されていたものではあるが、100年以上も前の西洋の都市の風景や美術文化財の姿を今に伝えるものとして、まことに貴重である。
No. 6455 / ROMA ARCO DI GIANO QUADRIFRUNTE |
No. 6526 / ROMA FORO ROMANO |
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