東京大学総合研究博物館

「骨〜かたちと機能を支えるシステム」

展示解説


哺乳類の頭骨

  1. オオアリクイ    国立科学博物館蔵
  2. ハンドウイルカ(バンドウイルカ)
  3. カピバラ      国立科学博物館蔵
  4. ライオン          〃
  5. インドオオコウモリ     〃
  6. ゴリラ           〃
  7. ホンシュウジカ
  8. ノロジカ
  9. サンバー

 手足の骨を建物を支える柱にたとえれば、頭の骨は面(プレート)の集まり、つまり壁ということができる。哺乳類の頭骨の基本構造は同じで、人間の頭骨を基準にすると多くの哺乳類の頭骨は口の部分が突き出している。というより、類人猿の頭骨がとくに口の部分が短いというべきである。

 基本構造が同じであるにもかかわらず、その形態は種ごとにきわめて多様である。ここに展示したのは哺乳類の中のほんの一握りのものであるが、これだけでも哺乳類の頭骨の形態がいかに多様であるかがよくわかる。このようにさまざまな形を決めるのに特に重要な意味をもっているのは食性らしい。

 ライオンのような肉食獣は肉を裂き、切り刻むために鋭くとがった歯をもっている。そしてこれに関連して、顎の筋肉が発達し、それを支えるべく頭骨の横に強く張り出している。

 シカのような草食獣では植物を噛みとる前歯は偏平であるが、奥歯は植物をすりつぶすように臼歯となっている。

 ゴリラは草食性であるが、雑食性である霊長類の基本形を保っており、前方の切歯と犬歯、後方の臼歯と性格の違う歯をあわせもっている。このような歯をもっている種は状況に応じてさまざまな植物を食べることができる。

 イルカは泳ぐために流線型の身体をしているから口先が尖っている。このため頭骨の吻の部分が著しく伸びている。魚類をしっかりと捕まえるために多くの歯が規則的に並んでいる。

 カピバラは大型のネズミの仲間だが、ネズミ・リスの多くに共通なように、前歯は一生伸び続ける。

 コウモリの仲間は昆虫食、果実食、花粉食、そして吸血鬼とさまざまな食性をもち、それに応じて歯も多様である。ここに示したオオコウモリは果実食であり、ほかのコウモリの歯に比べると先端部が面的な構造をもっている。

 オオアリクイはアリやシロアリを専門的に食べるように特殊化しており、長い舌をもち、歯は退化している。

 このように哺乳類の歯は食性に応じて実にさまざまな形態に分化している。もちろん食性以外の要素も影響しており、展示標本の中ではシカの角とゴリラの牙(犬歯)が好例である。これらはオスとメスをめぐる行動を演出する道具としての機能をもっている。また夜行性の哺乳類は一般に目が大きいため、これに対応した部分の空隙が大きくなっている。

 頭骨にはこのような哺乳類の生活のさまざまな局面が凝縮されている。


●オオアリクイ Myrmecophaga tridactyla

 中南米の湿地、森林、サバンナなどに生息する。体長は1mあまりで、尾は80cm前後になる。体重は20kg前後。前足によく発達した爪があり、これで蟻塚を壊し、唾液のついた長い舌でアリやシロアリをなめとる。昆虫の幼虫も食べる。特殊化した食性のため、歯はまったく失われている。舌は直系1cmほどだが、長さは60cmもあり、舌というよりは紐のようである。長細い顔、巨大な爪、大きな箒のような尾、首から肩にかけての縞模様など、どれをとっても奇妙な動物である。標本は伊東市伊豆サボテン公園に飼育されていた個体。国立科学博物館蔵。


●ハンドウイルカ(バンドウイルカ)Tursiops truncatus

 世界中の熱帯から温帯にかけて分布し、日本では本州以南で見られる。体長は3mほど、体重は300kg近くになる。イルカの仲間としては吻が短いのが特徴で、そのため愛嬌のある表情に見え、イルカといえばこの種がイメージされる。寿命が長く40歳以上まで生きる。知能が高く、好奇心も強いので、人間が芸をおしえることができる。頭骨が流線型の身体の先端部にふさわしい形をしている。多数の歯があり、これで魚やイカなどさまざまな食物をたべる。標本は和歌山県太地より下田海中水族館に移されて死亡したメス、体長271cm、体重250kgであった。


●カピバラ Hydrochoerus hydrochaeris

 アマゾン川流域に分布し、水辺の草原で集団でくらす巨大な齧歯類(ネズミの仲間)。体長130cm、体重60kgにもなる最大の齧歯類である。朝夕に活動し、20頭ぐらいの群れを形成する。巣は作らない。危険を感じると、猛烈な早さで逃走し、水中に飛び込んで器用に泳ぐ。水草やイネ科の葉を食べる。肉が美味なため狩猟され、各地で減少し、現在では牧場で飼育されている集団もある。下顎の切歯は一生伸び続ける。標本の出自は不明。国立科学博物館蔵。


●ライオン Panthera leo

 「百獣の王」としてよく知られたネコ科の大型種。かつてはアフリカ、南ヨーロッパ、中近東、南アジアに広く分布していたが、現在はアフリカとインドの一部にしか残っつていない。乾燥した草原に生息し、レイヨウなどを捕食する。性差が大きく、体重はオスが150-240kg、メスが120-180kg。よく知られるようにオスはよく発達したたてがみをもつ。同じ場所にすむヒョウ、チーター、リカオンなどは体重100kg以下の獲物しか狙わないが、ライオンだけは250kgもある獲物でも倒す。社会性が強く、複数のオス、メス、子供から成るプライドと呼ばれる群れを作り、かたい絆で結ばれている。同じ属のトラが森林にすみ、単独性であるのと対照的である。頭骨は肉食獣の典型を示しており、よく発達した顎、肉を裂くための歯などが特徴的である。標本の個体は多摩動物公園に飼育されていたジローという個体で13歳で死亡。体重136kgであった。国立科学博物館蔵。


●インドオオコウモリ Pteropus giganteus

 オオコウモリ科は翼手目(コウモリ類)のうち最大のものを含むグループで、世界には170種ほどがおり、日本には南西諸島のクビワオオコウモリと小笠原のオガサワラオオコウモリがいる。小型コウモリが超音波を利用してすばや動きの昆虫を捕獲するための俊敏な飛翔をするのに対して、オオコウモリは有視界飛行で直線的な飛翔をする。食性はおもに果実食で、そのために歯も臼歯が面的である。そのほか、花や花粉を食べる種もある。オガサワラオオコウモリ(Pteropus pselaphon)は両手を開くと30cmにもなり、体重は400g前後。標本はインドオオコウモリのメスで、体重315グラムであった。国立科学博物館蔵。


●ゴリラ Gorilla gorilla

 アフリカの熱帯林にすむ最大の類人猿。オスは伸長170cmほどで、体重は150kgから180kgになる。メスは伸長150cm,体重90kg程度、寿命は35年くらい。ウェスタンローランドゴリラ、イースタンロードランドゴリラ、マウンテンゴリラの3亜種に分かれる。チンパンジーとともに人間にもっとも近縁である。外見から獰猛な動物と誤解されていたが、ゴリラは採食主義者で、果実よりも葉を食べる。そのため果実専門食の霊長類よりも大きな群れで生活する。葉食いであるために臼歯が発達するとともに、咀嚼筋がよく発達している。とくに側頭筋が大きく、頭頂にある隆起(矢状隆起)につながっている。オスではこれがとくに発達して、ヘルメットをかぶったように異様に突き出して見える。ゴリラは個体数が著しく減少している。標本は多摩動物公園で飼育されていた、メス(キキ)の頭骨である。国立科学博物館蔵。


●ホンシュウジカのオス Cervus nippon

 ニホンジカはエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクシカなど数種の亜種に分けられている。このうちホンシュウジカはオスの体重が80kg、メスは50kgほどになる。森林にすみ、ササや低木の葉などを食べる。一夫多妻制で立派な角をもった大きいオスが数頭のメスを独占する。繁殖力が強く、メスは通常2歳の夏から子供を産み始め、ほぼ毎年出産する。オスの角は典型的には4本の枝をもつ。この角は毎年春に落ち、新しく生え替わる。この標本個体は宮城県金華山島産で、ホンシュウジカとしてはやや小さめである。


●ノロジカのオス Capreolus capreolus

 ユーラシア大陸北部に広く分布し、ヨーロッパから朝鮮半島にまでいる。体重は20kg前後で温帯のシカとしては小型である。オスの角はニホンジカやアカシカとはデザインが違い、前に一本、後ろに一本が出ている。繁殖力が高く個体数も多いので良い狩猟対象となっている。ヨーロッパではアカシカよりも身近な狩猟獣で、農耕地周辺にもすんでいる。レストランやバーなどには頭骨や角が飾ってあるのをよく目にする。標本はチェコスロバキア産のオス。

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