前衛芸術としての新聞


アヴァンギャルド運動を支えた稀少紙

ひとくちに新聞というが、なかには数十万部、数百万部の単位で発行された有力紙もあれば、数百部という単位でしか発行されなかった小新聞もある。後者の代表が、芸術の前衛を標榜する個人やグループの手で発行された前衛芸術紙である。詩人マリネッティに領導されたイタリア未来派は新聞を、自分たちの主義主張の宣伝のため有効に活用した。アナーキスト、ダダイスト、急進左翼派もまた、反体制、反芸術、反制度の主張を喧伝するために、自分たちの新聞を作り、闘いの武器とした。

20. 隔週刊紙『アロ』

ダーネンス社主編集
第六号、一九一九年九月二〇日発行
ウックル=ブリュッセル、アロ印刷所
ダーネンスのリノカット表紙
個人蔵
Haro! 、A. Daenens(Redaction-Administration) No.6, 20 September 1919 Uccle-Bruxelles, Imprimerie de Haro! Linocut cover by A. Daenens Private Collection 8pp., 390 x 305

21. 隔週刊紙『アロ』

ダーネンス社主編集
第八号、一九一九年一〇月二〇日発行
ウックル=ブリュッセル、アロ印刷所
ダーネンスのリノカット表紙 個人蔵
Haro! A. Daenens(Redaction-Administration) No.8, 20 October 1919 Uccle-Bruxelles, Imprimerie de Haro! Linocut cover by A. Daenens Private Collection 8pp., 387 x 308

もともと四つ折りであるが、小口アンカットのためフォリオ判に近い。本紙は上下がいくぶん断たれ、角判に近いかたちをとっている。発行は三期にわたっており、第一期七冊、第二期十二冊、第三期五冊で、都合二十四冊が出版されている。ベルギーのアナーキスト雑誌の嚆矢を飾る。セピア色のクラフト紙を用いており、八頁のもの、十二頁のものがある。定価は二十五サンチーム。毎月五日と二〇日の二冊発行。表紙はデッサンの複製か、あるいはリノカット、木版などのオリジナル版画で飾られており、本文頁にもカットと挿画がある。ダーネンス、リック・ウーテル、スピリアールト、シーレン、プティ、ジョセフ・カントレが挿画を描き、テキストにはカステール、ダーネンス、シュヴィックラット、トルストイ、ドゥヴァルデス、アルディ、クロード・パロスなどが寄稿している。現代美術、堕胎、売春、美術とボリシェビキなど、社会と芸術との関わりをテーマとする特集記事が目につく。

22.週刊文芸紙『デア・シュトゥルム(嵐)』 

ヘアヴァルト・ヴァルデン編著
一九一二年九二号、一九一二年一月発行
ベルリン、デア・シュトゥルム出版社
アルトゥール・ゼーガルのオリジナル木版表紙
個人蔵

Der Sturm : Wochenschrift fur Kultur und die Kunste Herwarth Walden(Editor) No.92, January 1912 Berlin, Der Strum Verlag Original woodcut cover by Artur Segal Private Collection 8pp., 495 x 328

ベルリンのユダヤ系音楽家ヘルヴァルト・ヴァルデンが画廊経営の傍ら、一九一〇年三月に週刊紙として創刊した文芸紙。二十一年間で通巻二一巻四一三号三百三十八冊を数える。第九巻までは八頁ないし十六頁のタブロイド判ないしフォリオ判で発行され、以後は四つ折り、八つ折りと小型化する。「文化と芸術の週刊紙」と銘打って「ジャーナリズムと文芸欄主義に取って代わる」ものとして創刊されたが、すぐに美術への傾斜を強め、「ノイエ・ゼセッション(新分離派)」、「ブリュッケ(橋)」、「ブラウエ・ライター(青騎士)」など、ドイツ表現主義の新思潮の旗振り役を務める。フランスとチェコのキュビスム、イタリアとロシアの未来派、ロシアとハンガリーとルーマニアの構成主義など、第一次大戦に前後して台頭するアヴァンギャルド文芸運動の紹介において比類のない役割を担った。一九三一年に結核治療法雑誌『デア・ドゥルヒブルック(突破)』と合併して廃刊となった。

23.週刊文芸紙『デア・シュトゥルム(嵐)』 

ヘアヴァルト・ヴァルデン編著
第五年一二号、一九一四年九月二日発行
ベルリン、デア・シュトゥルム出版社
カール・メンスのオリジナル・リノカット表紙
個人蔵
Der Sturm : Halbmonatsschrift fur Kultur und die Kunste Herwarth Walden(Editor) No.12, 5th Year, 2 September 1914 Berlin, Der Strum Verlag Original linocut cover by Carl Mense Private Collection 8pp., 417 x 310

フォリオ判時代の『デア・シュトゥルム』。この時期は用紙の質も良く、扉頁か、さもなくば第五頁に大判のオリジナル版画が掲げられた。ベルリン留学中の山田耕筰がヴァルデンに委ねられた版画を東京に持ち帰り、開催したデア・シュトゥルム木版画展に陳列された版画作品のなかには、本紙に掲載されたこの種のオリジナル版画が多く交じっていたはずである。

24.週刊美術家紙『クリーグスツァイト(戦時)』

パウル・カッシーラー+アルフレッド・ゴールド共同編集
第一一号、一九一四年一一月四日発行
ベルリン、ポール・カッシーラー出版社
ガンツのオリジナル石版画表紙、 ベックマンのオリジナル石版画裏表紙
個人蔵
Kriegszeit : Kunstlerflugblatter Paul Cassirer + Alfred Gold(Editors) No.11, 4 November 1914 Berlin, Verlag Paul Cassirer Original lithograph "Fierfabel" cover by A. Ganz + original lithograph backcover by Max Beckman Private Collection 4pp., 482 x 320

25. 週刊美術家紙『クリーグスツァイト(戦時)』

パウル・カッシーラ+アルフレッド・ゴールド共同編集
第一七号、一九一四年一二月一六日発行
ベルリン、ポール・カッシーラ出版社 グラーヴ・リンダウのオリジナル石版画表紙
オットー・ラトナウー+エルンスト・バルラーハのオリジナル石版画挿画
個人蔵
Kriegszeit : Kunstlerflugblatter Paul Cassirer + Alfred Gold(Editors) No.17, 16 December 1914 Berlin, Verlag Paul Cassirer Original lithograph "Reitergefecht" cover by Greve-Lindau Original litograph "Deutsche Dichter" illustration by Otto Rattner + Original lithograph "Der heilige Krieg" illustration by Ernst Barlach Private Collection 4pp., 482 x 320

第一次世界大戦の勃発とともに、ベルリンのポール・カッシーラーが資金を出し、マックス・リーバーマンの編集で発行された愛国主義的なタブロイド版週刊美術新聞。通巻で六五号を数える。石版画印刷による版画・風刺画新聞のかたちをとっており、エルンスト・バルラッハ、マックス・ベックマン、ケーテ・コルヴィッツ、マックス・リーバーマン、ハンス・メイドなど、多数のオリジナル石版画を含む。戦争の激しさが増すにつれ、雑誌のトーンは悲壮感を深めて行き、やがて発行停止に追い込まれる。やむなくカッシーラーは、同様に体裁で『ディ・ビルダーマン』を創刊することになる。オールド・ストラットフォード紙に印刷された五十部限定版も存在する。



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