第2部

展示解説

植物界

REGNUM VEGETABILE

 

果実より花が重要である。
花の本質は葯と柱頭にあり、私はそれらを用いて分類する。
そこで私は動物学の体系を私が自身の目で
(中略)葯は雄性の生殖器官である。
葯の生殖の粉を雌性の生殖器官である柱頭に
ふりかけることで、生殖が起こる 。
このことは、観察、実験、類推、解剖、原因と結果、機能により確認されてきた。

リンネ「自然の体系」から

 

 植物はクロロフィルをもち、光合成をおこなって、水と空気中の二酸化炭素などの無機物から、みずからの体をつくるのに必要な有機物と、生活に必要なエネルギーを得ることのできる生物である。その細胞はセルロースからなる細胞壁をもつ。海の中には、さまざまな藻類が存在しているが、陸上植物はすべて共通の祖先−緑藻の1種−から進化したと見られている。陸上への進化の過程で植物は根・茎・葉の構造をもつようになった。

 植物は土壌に根ざし、無機物質を取り込んで成長する。植物は太陽エネルギーを植物、動物が利用できる熱エネルギーに変換する。植物は食料として、動物のエネルギー源になる。植物界は鉱物界に育てられ、動物界を育てるものである。

 

 

 

植物 部門紹介

 

植物部門

 総合研究博物館では、植物部門、森林植物部門、薬学部門の3部門が植物標本を収蔵する。標本も形態は さまざまであるが、中心と芯るのはおし葉標本である。上記の 3 部門が収蔵するおし葉標本は 利用上の利便さを考慮してすべてを一体化して保管するように準備を進めている。

 明治 10 年 (1877) に日本での最初の国立大学として誕生した、東京大学理学部植物学教室 では日本の植物相の分類学的な研究を最重要課題として教育研究に取組んだ。植物部門は矢田 部良吉、松村任三、早田文誠、中井猛之進、本田正次、原寛ら、歴代教授のコレクションを 収蔵する。早田教授は台湾、インドシナ、中井教授は朝鮮、本田教授は中井教授とともに中国 北部の植物相を実地に調査し、自ら多数の標本を収集したほか、指導する大学院生を上記地域 や太平洋諸島、干島、樺太などに派遣し、分類学の研究を進めた。また、諸外国の研究機関 などと標本の交換を積極的に進め、東アジアやヒマラヤ標本の充実をはかるほか、未調査地域 の標本収集にも努めている。

 その後、研究は日本に近接する地域や太平洋地域にも及び、1960年からはヒマラヤや東南アジア、 アンデスなどにも研究が広がり、世界中から標本が収集されている。中でも東アジアおよび原教授 によって開始されたヒマラヤ地域の調査研究ではぼう大な標本が収集され、ともに世界屈指の コレクションとなっている。

 現在、収蔵する標本は 170 万点を超える。大学の植物標本室としては世界でも十指に入る規模で ある。東京大学の植物標本室は国際記号をTIといい、世界でも重要な標本室とみなされ、数多く のモノグラフや論文に収蔵標本が引用されている。収蔵標本のうち、コケ植物、地衣植物の標本 は国立科学博物館、藻類標本は北海道大学に永久貸出し中である。


森林植物部門

 国際的な略号をTOFOという。 植物学教室に受け継がれてきたコレクションの一部である。中心と なるのは木本植物約 6 万点とシダ植物約 2 万 点のおし葉標本である。スペースの関係でシダ植 物の標本は農学生命研究科標本室に保管される。同標本室には そのほか、約 1 万点の材鑑標本、 3 干点の菌類標本などがある。

 おし葉標本の大半は猪熊泰三教授ら歴代教職員によって広く日本国内各地かう採集されたものであ るが、ヘンリー (A Henry) が中国大陸で採集した歴史的コレクション、倉田悟教授によるニューギ 二アの標本、その他、台湾、海南島などの諸地域からの標本が含まれる。シダ植物では主に倉田教授が発表した多数のタイムスペシメンが含まれる。


薬学部門

 中心となる標本は古来から国内外で用いられている民間薬、漢方薬、その他の生薬標本1万5千点である。おし葉標本は小笠原諸島、琉球諸島を含む日本各地、樺太、朝鮮半島、中国、台湾、ジャつなどでの採集品で約 3 万点に達する。そのうち、日本で採集された標本の中心となっているのは、藤田教授のコレクションである。薬学部門が所有する標本のうち、おし葉標本は植物部門及び森林植物部門のおし葉標本と一体化し、利用の便を増進すべく、整備が進められている。

大場秀章

 

表紙に戻る次頁へ


Copyright 2004 The University Museum, The University of Tokyo