はじめに

高橋 進



 東京大学総合研究博物館は平成8年5月に開館して今年で8年目を迎える。これまでに「東京大学コレクション展」として学内に収蔵されている学術標本に光を当てる特別展示を16回にわたって開催してきた。今回の特別展示も、第17回東京大学コレクション展として学内に蓄積されている標本に新たな切り口で光を当てようとする試みである。

 故渡辺武男東京大学名誉教授は、東京大学総合研究博物館の前身である東京大学総合研究資料館の初代館長であり、長年に亘って、東京大学理学部地質学教室の教授として研究と教育に大きな成果を挙げてこられた。昭和20年10月に渡辺先生は、原子爆弾災害調査研究特別委員会の物理班地学グループのリーダーとして広島・長崎の現地調査に当たられた。終戦直後の困難な状況の中で渡辺先生は科学者としての立場を堅持して調査を遂行し、被爆の状況を伝える貴重な岩石や窯業素材標本を収集し、東京大学に持ち帰って原子爆弾の岩石に与える影響を研究された。先生の収集された試料は、戦後約60年間、ひっそりと当館の収蔵庫に眠っていたが、この度、東京大学総合研究博物館特別展示「石の記憶-ヒロシマ・ナガサキ」として、初めて公開される。科学者の目を通して、渡辺先生が被爆試料に対して何を感じ、何を追求したかを感じ取っていただきたい。

 本展の開催にあたって、多大なご協力を賜った関係の各位、機関に厚く御礼申し上げる。



東京大学総合研究博物館長




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