ニュートリノ展を企画して




 「ニュートリノ」展の担当に決まったときに、先ず頭を悩ましたことは「素粒子」という実感できない概念の素材で展示ができるのかということでした。「素粒子は物質を構成している基本的な粒子で・・」という定義をどのように展示に結びつけるか、素粒子物理学には素人の私には荷の重い課題でした。しかし、大学における博物館の最も重要な使命の一つが、大学で行われている研究の成果を公開し社会に情報発信することであるとすれば、小柴先生のノーベル賞受賞の対象になった研究成果を展示を通じて公開することこそ、まさに大学博物館ならではの事業であると思いました。

 私の目に映った素粒子実験の特長は、最も小さい粒子を研究するのに、巨大な実験装置が必要であることです。高エネルギー加速器機構、ドイツ電子シンクロトロン研究所、欧州素粒子物理学研究所などの大型の加速器による素粒子実験が人工的な事象を実験する施設であるのと対照的に、神岡鉱山にあるカミオカンデ、スーパーカミオカンデは、太陽や超新星という自然の事象を岩盤と清浄な水という自然の素材を活かし、自然の中に作った観測装置で研究するという点で心引かれるものを感じました。宇宙から飛来する極微小の素粒子の世界を巨大な光電子倍増管を配した巨大な虫眼鏡で覗くというコントラストに焦点を当てて、今回の展示では、直接的な研究成果ばかりでなく、その中に科学者の抱く研究に対する感性と情熱、また巨大な装置を計画から完成に持っていく科学者と技術者のコラボレーションの様子をも伝えることができるように努めました。小柴先生が言われる「基礎科学の重要さ」とその魅力を感じ取って戴きたいと思います。

 この展示を行うに当たって、ご協力くださった小柴昌俊先生、宇宙線研究所の鈴木洋一郎教授、大学院理学系研究科物理学専攻の蓑輪眞教授、神岡鉄道株式会社の小長井憲二さん、元神岡鉱業の小松正さんに心から感謝申し上げます。


東京大学総合研究博物館
田賀井 篤平




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