2.貝殻の形の多様性


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二枚貝の形

 二枚貝の形にも様々なバリエーションが存在します。二枚貝類ではハマグリ類Meretrixのような少し傾いた亜三角形の殻が一般的です。イガイ科Mytilidaeやハボウキガイ科Pinnidaeは三角形の殻が基本形です。マドガイ類Placunaやツキヒガイ類Amusiumは円形に近い殻を持ちます。リュウキュウアオイCorculum monstrosum(図2-34)は動物体の左右ではなく、前後につぶれたような形をしており、海底上に横たわって棲息しています。シュモクガキMalleus(Malleus)albus(図2-35)やクロシュミセンMalleus(Malleus)malleus(図2-36)はT字形をしています。これらの貝も海底に横たわるようにして棲息しています。ハマユウガイ科Clavagellidae(図2-37)はシュノーケルのような筒形の殻を持ち、海底につきささるように埋もれて生活しています。シャクシガイ科Cuspidariidaeは水管の部分が長く伸びてしゃもじのような形になります。ウグイスガイ類Pteria(図XIV)では後ろ側の耳が長く伸びています。この特殊化した形態は、外套腔から排出される水流と流入する水流を効果的に分離させる機能があると考えられています。


 

 

 

 

 
 殻の膨らみも様々です。イセシラガイ類Anodontiaなどはよく膨らんだ殻をもちます。コウホネガイ科GlossidaeのリュウオウゴコロGlossus humanusは強く膨れて螺旋形に巻いています。一方、コノハザクラPhylloda foliacea(図2-38)やヒラザクラTellinides ovalis、マドガイPlacuna placenta(図2-39)、ナミマガシワ類Anomiaなどは極端に扁平です。


 

 
 多くの二枚貝では、2枚の殻の合わせ目は直線的です。しかし、ザルガイ科Cardiidaeやイタヤガイ科Pectinidaeでは細かい刻み目やかみ合わせをもち波打っています。シャコガイ科Tridacinidae、トサカガキLopha cristagalli(図2-40)、シャコガキHyotissa hyotis(図2-41)などではいっそう顕著です。シャコガイ類の場合は外套膜に共生する共生藻から栄養を得ています。殻を波打たせることで2枚の殻の間に広がる外套膜の面積を増やし、より多くの栄養を得ることができると考えられます。


 

 
 二枚貝類の殻は左右対称の等殻(equivalve)が基本形です。しかし、左右非対称の不等殻(inequivalve)も多くの二枚貝類に見られます。代表例は固着性の二枚貝です。ナミマガシワ科Anomiidae、イシガキ科Dimyidae、エゼリアガイ科Etheriidae(図2-42)、カキ上科Ostreoidea、キクザルガイ科Chamidae、ウミギクガイ科Spondylidae、キクザルガイダマシ科Leidothaeridaeなどです。これらは不定形の不等殻であり、固着基板の形態に応じて貝殻の形を柔軟に変えることができます。セミアサリClaudiconcha japonicaは穿孔性の貝で不等殻を持ちます。一方、自由生活をする定形の不等殻の例はあまり多くありません。ビョウブガイTrisidos kiyonoi(図2-43)は左右にねじれたプロペラ状の殻を持っています。クチベニガイ科Corbulidaeは右殻の方が大きく、左殻を抱き込んだような形になります。ネリガイ科Pandoridae、ミソカドカタビラガイ科Myochamidae、リュウグウハゴロモガイ科Periplomatidae、スエモノガイ科Thraciidae(図2-44)には片側の殻が扁平になる種が見られます。マテガイ科SolenidaeのEnsis ensis(図2-45)は左側へ曲がった殻を持っています。ニッコウガイ科Tellinidaeの殻の後方は右側へ向かって反り返っています(図2-46)。ニッコウガイ科は右殻を上にして横たわっており、殻の反り返りは水管を上方に導く機能を担っています。


 

 

 

 

 
 二枚貝では成長による殻形の変化が顕著ではありません。しかし、ハマユウガイ科Clavagellidaeは二枚の殻が突然癒合して筒状の殻に成長します(図2-37)。ヒノデニシキ類Hinnites(図2-47)は若い時は通常のイタヤガイ科と同様の形態を持っていますが、突然不定形に変化します。


 
 殻形態と生態の関係を示す好例としてイタヤガイ科Pectinidaeが有名です。この科には足糸付着型と遊泳型の種があり、殻の形態からも区別できます。遊泳型は殻頂角が大きく、水流を噴出させるための隙間があります。足糸付着型は殻頂角が小さく、左右の殻はぴったりと閉じて、足糸出す隙間のところには足糸を固定させるための櫛歯状の構造(ctenolium)を持ちます。遊泳型の種も幼貝は足糸付着のステージを経るため、足糸付着型の方がより原始的な状態であると考えられます。

 二枚貝の殻の表面の彫刻は様々です。彫刻は、放射肋(radial rib)を持つものと共心円肋(commarginal rib)を持つものが一般的です(図2-48、2-49、2-50)。しかし、キヌタアゲマキ科Solecurtidae、ギンギョガイNeocardium bechei、Donax madagascarensis(図2-51)などは斜めの肋を持ちます。さらには殻の前後で向きの異なる分岐肋(divaricaterib)を持つ種もあります。キララガイ類 Acila、セワケツキガイ類Divaricella(図2-52)、ケマンガイGafrarium divaricatum(図2-53)などがその例です。これらの彫刻は海底中への潜入する時砂粒を流動させるのに役立つと考えられています。


 

 

 

 

 

 
 二枚貝類では棘の発達は、ウミギクガイ科Spondylidae、キクザルガイ科Chamidae、ケガキSaccostrea kegakiなどに見られます。マボロシハマグリPitar(Hysteroconcha)lupanariaは内在性の種では珍しく棘を形成します(図XVI)。本種は棘を海底面に垂直にするような姿勢で棲息しており、棘は水管を保護するために役立つと考えられています。


 



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