20 複製メディアとしての写真の誕生





 写真は1820年代のフランスで誕生し、たちまち世界各国へ広まっていった。対物レンズで現実を捉えることで世界を忠実に記録して見せる光学装置は、その再現性の故にリアリズム絵画を時代遅れのものとした。興味深いのは、初期の写真家は、そのほとんどが画家であり、しかも写真を最初に撮ったジョゼフ・ニセフォール・ニエプス(1765−1833)がそうであったように、好んで絵画作品を複写していることである。英国ヴィクトリア朝期の有産階級は、こうした複製写真の収集に熱を上げた。貴族の写真アルバムに貼り込まれた極小写真は、イメージを見ることと同時にそれを所有することが写真の誕生とともに可能になったことを証拠づける。


20-1 サクラザワ氏旧蔵「ヴィクトリア朝写真アルバム」
鶏卵紙印画の貼り込み、総革装、縦27.8、横23.3、イギリス、1850年代後半1870年代後半
 貼り込まれている写真のほとんどが宗教図像の複製、なかでもイタリア・ルネサンスの、とくにラファエッロの絵であることは示唆的である。ここにはヴィクトリア朝の上流階級の審美眼と倫理観が直截に顕れている。絵画の複製写真と実在する人物や風景を捉えた写真とが貼り混ぜられたこの写真アルバムでは、虚構の世界と現実世界を隔てるものがない。



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