5 模写は絵画の王道である





「古画」の模写は、洋の東西を問わず、古くから描画技術を習得する最良の手段とされてきた。美術教育組織としての絵画アカデミーが、なんらかのかたちで美術コレクションと不即不離の関係にあったのはそのためである。事実アカデミーの教育プログラムは、「古画」の模写を進級に応じて進められるように組み立てられていたのである。模写を通じての絵画技法の研究は、形態の把握や構図の習得だけでなく、新しい絵画表現をきり拓く方途にもなる。これらの模写を手掛けた藤田吉香は西洋古画の技法にヒントを得て、日本画に新境地を打ち立てた。なお、こうした模写は所蔵館の許可を得て行われるが、真作との紛れを避けるため異なるサイズで描かれるのが普通である。


5-1 藤田吉香模写、プラド美術館蔵フラ・アンジェリコ作『受胎告知』の裾画より
原寸大模写、板にテンペラ、縦25.5、横39.0、額寸縦45.0、横57.8、1963年(昭和38年)、東京大学教養学部美術博物館蔵

 裏側に「1963年自8月至10月於スペイン国マドリッドプラド美術館依フラ・アンゼリコ『受胎告知』藤田吉香写」とある。


5-2 藤田吉香模写、プラド美術館蔵ヒエロニムス・ボッス作『快楽の園』の右翼「音楽地獄」より
ほぼ原寸大の模写、板にテンペラ、縦38.5、横58.5 、額寸縦52.0、横71.2、1963年(昭和38年)、東京大学教養学部美術博物館蔵


5-3 藤田吉香模写、プラド美術館蔵タッデオ・ガッディ作『金銀細工場の聖エロワ』(模写)
板にテンペラ、縦34.5、横39.0、額寸縦53.0、横57.8、1963年(昭和38年)、東京大学教養学部美術博物館蔵



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