二十世紀の世界は工業化社会として驚異的な発展を遂げ、私たちの生活環境が大幅に改善されたことは事実です。しかしながら、その発展は必ずしも世界の進歩をもたらさないということもわかってまいりました。すなわち、今までの常識では予想できなかったことが私たちの周囲で起こっており、マニュアルには書いてないような事態に対処しなければならなくなってきたのです。
二十一世紀のポスト工業化社会に向けて、大学が今までに蓄積してきた研究成果を社会に還元し、私たちのこれから進むべき道を提案することが非常に重要になってきています。今までは、大学から社会への発信は論文(文字情報)による方法が主流でした。しかしながら、現在では、文字以外にいろいろなメディアを情報発信のために利用することが可能になりました。
東京大学総合研究博物館は研究機能と展示施設を併せもつ機関です。東京大学は百二十年以上の歴史をもち、学内には、数百万点にも及ぶ膨大な学術資料・標本が蓄積されています。これらの資料・標本を保管・収蔵することも重要な仕事ですが、それ以上に、これらの貴重な資料から新しい「知」を創造することが大学博物館に求められています。資料・標本は、当初はある学問の専門分野の立場から収集されたものですが、それらを異なった立場から分析したり、あるいはこれからの社会が向かう方向に沿って整理し直してみると、次世代に向けて新しい地平を開く可能性がでてきます。
総合研究博物館では、常設展示の他にいくつかの企画展示を手掛け、これらの展示を通じて、私たちの研究成果や提案を発信してきました。今回は、東京大学コレクション展シリーズの第九回として、社会情報研究所と共同で「ニュースの誕生」展を企画しました。かわら版や新聞錦絵を通じてニュース・メディアの歴史を新しい視点から分析し、これからの高度情報化社会の情報行動や社会現象の解析を試みました。
最後になりましたが、本展開催にあたり多大なご協力を賜った社会情報研究所をはじめ、関係各位に深く感謝申し上げます。
東京大学総合研究博物館長 川口昭彦