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小町の舎

宮本佳明+アトリエ第5建築界


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丹後半島のほぼ中央に位置する大宮町五十河は、ブナの自然林に抱かれた谷間の里である。六歌仙の一人で、絶世の美女と謳われた小野小町は、ここ五十河の里に移り住み、この地で世を去ったと伝えられる。この伝承を手がかりにして、大宮町では現在「小町の里公園」整備事業計画が進められている。「小町の舎」は、公園の中核施設として、小町に関する資料の展示や、研修、集会等の機能を備えた建物として計画されたものである。敷地は、緑豊かな山が西側に迫り、東側を「蛍の川」と呼ばれる小川に縁どられるようにして、南北に長く横たわっている。ここでは、恵まれた周辺の自然環境を建物内部に招じ入れることを目的にして、小町の住まう舎という言葉から連想される寝殿造の構成に倣って、透明性の高い建築を提案している。

構造的には、高床形式の採用により、筋違や貫構造によって得られる剛性を根がらみに隠し込んで、木造でありながら柱をキャンティ柱として成立させることで、床上での透明性を確保している。複雑な3次元の形状を持った屋根は、木のセルフ・ベンディング性を利用した木造格子シェルを、キャンティ柱の上に掛け渡される集成材の梁に固定して、これを透光性膜で覆ってつくっている。さらに、高床の床下を設備ピットとして利用することにより、木格子現しの化粧屋根裏はすっきりと見通すことができる。

平面的にも、「一屋一構を廊でつなぐ」という寝殿造の構成原理に従って、等高線に裏打ちされるように折れ曲がりながら、全体として棟が連続していくよう配置している。大宮町は豪雪地帯(設計用長期積雪荷重0.45t/m2)に位置するが、高床形式によって無理なく雪だまりのスペースが確保されることから、葺材に滑雪素材であるテフロン膜を使用するとともに、全体を細長い屋根の連続体として、流れ寸法の短い平側への滑雪が促進されるように計画している。

資料の展示については、空間の透明性を損なわないように、屏風、御簾、几帳といった舖設的な仕掛けによって行うことを提案している。その一方で倉庫や便所と言った閉鎖的な機能をもつ諸室は、「塗籠」と呼ぶコアに集約してあえてヴォリュームを強調した上で、これらを分散的に配置している。気配がヴォリュームの背後に回り込むことによって、「奥床しさ」という言葉で表現される別種の透明性が生まれることを意図したものである。

公園とは、単に公的に整備、管理された土木構築物としての地面と、それに付随した遊具を意味するのではなくて、そこに人々の活動が重なって初めて成立する「状態」のひとつと考えることができる。だとすれば、その「状態」の有り様は固定的であったり占有的であったりしない方がより豊かであろう。この計画では、「小町の舎」にとどまらず裏山も含めた公園全体を開かれた公共施設とするべく、単に対身障者ということにとどまらない広い意味でのバリアーフリーデザインを目指している。

たとえば、建物の中央を貫通するパッセージを挟んで管理棟の反対側に設けられる研修室は、南面する鎧戸を引き込むことにより和室一板の間一芝のスロープ一修景池となだらかに落ちてゆくひと続きの空間となる。さらには、パッセージや開放された軒下空間が、裏山に整備される散策路や蛍の川を巡る遊歩道と有機的に結びつくことによって、「小町の舎」の開館時間外であっても自由に回遊が可能な、散策路のネットワークが形成される。そして、長く引き延ばされたファサードは、それ自体公園の景観に参加してくるだけでなく、建物内部のアクティビティを外部に映し出すスクリーンとなって、バイパス道路を通過してゆくだけの施設と直接関係のない人々に対しても、語りかけることが期待されている。


配置図兼平面図
配置図兼平面図 scale:1:250
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