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ハイパーコミュニケーションプレイングツール「COMCO」

阿部仁史アトリエ


COMCO
COMCO
COMCO

今回の企画の参加にあたり、我々は様々な議論を戦わせた。バーチャルアーキテクチャー展「幻の建築案」と題された展覧会がその企画で求めていたのが惜しくもコンペで敗れた案や今まで計画しながら実現せずに終わった案の中でぜひ実現させてみたい建築を展示するという内容だったからである。これが単なる幻の建築展という企画であったなら、我々も素直に日頃抑えられがちな創作意欲の捌け口としてこの展覧会に参加できたのではないかと思う。しかしながら、本邦初公開のデジタルミュージアムにおいて開かれる展覧会、しかもそこにバーチャルアーキテクチャーという名前がかぶせられている故に、ふと我々は立ち止まってしまったのである。そもそもバーチャルアーキテクチャーというのは一体何なのだろうか。もしこの幻の建築と、バーチャルアーキテクチャー(仮想建築)という語句が幻=仮想現実と言う単純な連想で重ねられているとしたらそれを素直には受け入れられない。と、思ってしまったのである。バーチャルアーキテクチャー=建たない建築、建たなかった建築それは余りにも悲しいではないか。大体考えてみれば建築というのは昔から世界を映しこんだひとつのバーチャルなモデルみたいなものだったんじゃなかっただろうか。それに今だって公共施設の設計をしながら実体のない仮想の現実の中で行為を繰り返しているようなそんな虚しさをふと我々は感じたことはないだろうか。そこにはいない行為する人達と、そこにはいないそれを造る者達、我々はすでにそんな仮想現実の中でプレイするゲーマーなのだ。一体バーチャルとリアルを分けるその境目はどこにあるのだろう。少なくともそれは建ったか、建たなかったか、ということではない。あるいはバーチャルとリアルこの2つの言葉は対立項ですらないのではないだろうか。我々は今、流れ出そうとしている現実と、留まろうとする意識の境目に立っている。

製品企画書
ハイパーコミュニケーションプレイングツール「COMCO」

用語説明

KnotCOMCOの内部での中心、ユーザー自身を表すキャラクター。
ユーザーの活動によって成長する。結び目。
Link結び目理論では複数の結び目が絡み合って出来る図形(絡み目)の事を指すが、
COMCOではCOMCOをジャックすることで生成される、他のユーザーのキャラクターの総称。
3つのレベルが存在し、情報の表示、メッセージの質などが異なる。
Fusion一定の条件を満たしたLinkとFusion(融合)すること。また融合した相手。
最小交差数結び目の中には紐を移動することによって互いに変形できるものが存在する。
そのような結び目のうち最も交点の少ないダイアグラムでの交差点の数。
自明な結び目リング。最小交差数0の結び目。

COMCOとは

製品名について

COMCO=COMmunicatio COmpass, COMmunity COmpass, COMmon COmpass, COMpact COmmunity, COMfortable COmpany, COMmunication COntroller, COMmunication COlony.
COMCO
COMCO

パーソナルなコミュニティの中を泳ぎ回るための羅針盤

製品コンセプト

個々のユーザーのコミュニティを自動的に図式化するPIMと統合された新しい携帯コミュニケーションツール

基本機能

address自動登録

COMCOの先端部のジャックを相互に接続することで、お互いの情報が交換される。従来のPDAのような入力作業は存在しない。

AutoAllocation

接触の頻度によってLinkを自動的に配置する機能。

メッセージ交換機能

電話回線を意識しない、ノンダイヤル発信。相手ごとの最後のメッセージを保存しておける受信機能。リンクのレベルによって機能がアップする。

成長シミュレーションゲーム

ユーザーの操作に応じて自分のKnot、相手のLinkが成長し、コミュニケーションツールの機能がアップ。

ゲーム機能

ジャックした相手とゲームができる。得点に応じて成長を促進。

ターゲット購買層

小学生高学年以上

COMCOの世界

COMCOの初期化

購入したCOMCOをパーソナライズする(個人情報の入力)。起動キーとなるタブシールを引き抜くと初期化画面が表れる。

  • ニックネーム ・本名
  • 性別 ・生年月日
  • 血液型 ・郵便番号
  • 住所 ・電話番号
  • メモ リンク相手へのメッセージや、附加情報などユーザーが自由に使うニックネームを除くデータはすべてオプショナル。全てのデータは後から変更できる。
  • キャラクターとしてのKnot

    自分自身のキャラクターは数学の結び目理論で用いられる図柄をベースとして使用する。以下にそのいくつかの例を示す(図1)。
    結び目理論とは空間上におかれた紐の性状を研究する分野であるが、ここではその数学的な意味については割愛する。
    図右から2番目のように2本以上の紐で構成されるものは絡み目と呼ばれ、成分1の絡み目が結び目とされる。ここではユーザーのキャラクターとして結び目を使用することとする。(絡み目はFusionの際のキャラクターとして使用する。詳しくはFusionの成長の項を参照)

    Knotの発生

    COMCOの初期化をすると、画面中央に結び目(Knot)のアイコンが表示される。
    初期状態のアイコンは個人データを元にシャッフルして2つから選ばれる(図2)。この2つはどちらも三葉結び目である。

    Knotの成長

    COMCOを操作していく過程で、ユーザーのKnotが成長する。成長の度合いは、結び目が複雑になることで表現される。複雑さを表す指標としては最小交差数を用い、それをユーザーのレベルとして扱う。図3は最小交差数8までの結び目の一覧である。
    基準となる三つ葉の結び目(三葉結び目)の最小交差数が3であるので、ユーザーのレベルは(最小交差数−2)として表示する。
    図で示されるように、最小交差数毎の結び目の個数は指数的(指数そのものではない)に増加するので、成長過程の違いによる性格の分化を表現するのに適している。
    Knotが成長することで周辺に配置できるリンクの数が増加する。リンク自体は3つのレベルに分かれるが、それぞれのレベルの最大リンク数はKnotの成長レベルに応じたキャパシティを重み付け配分したものになる。以下に例を示す。

    KnotのレベルAのキャパシティ:6

    外殻リンクの重み:1 中殻リンクの重み:2 内殻リンクの重み:3とした場合、最大リンクのパターンは以下の7通り
    (外殻,中殻,内殻)=(6,0,0), (4,1,0), (3,0,1), (2,2,0), (1,1,1), (0,3,0), (0,0,2)

    Linkの発生

    COMCO同士をジャック(筐体前面のコネクタによる接続)することでリンクを発生する。

    Linkの分類について

    Linkデータは次の3つのレベルに分類される。

    ・外殻 新たに発生したLinkが始めに配置されるレベル。
    このレベルに属するLinkに対してはメッセージを送ることは出来ない。
    参照できるLinkデータは名前、性別、血液型、生年月日。ジャックの頻度によって中殻に上がれる。
    一定期間ジャックをしないとLinkが消滅する。
    ・中殻 数字によるメッセージ(最大12文字)を送信可能。
    参照できるLinkデータは外殻と同じ。
    ジャックの頻度によって内殻に上がる、もしくは外殻に下りる。
    ・内殻もっとも高いレベル。送信メッセージにカタカナを使用できる(最大24文字)。
    参照できるLinkデータとして(電話番号、住所)が付加される。
    更に成長させることでFusion(後述)が可能となる。

    Linkのレベル移動について

    Linkのレベルを変化させるパラメータとしては次のものがある。

    1. その相手とジャックした回数 基本となるパラメータ。回数が多いほど上のレベルに成長する。
    2. その相手と最後にジャックしてからの期間 この値が極端に小さい場合(ジャックの抜き差しを繰り返すような行為)、(1)の値が増えない。また、(1)の値がすでに大きい場合でも(2)が大きくな った時、そのLinkのレベルダウントリガーとなる。(事前にユーザーにメッセージを通知)
    3. Linkに対するケア 成長促進剤。(1)の値が同じ場合でも(3)が大きい方がレベルが上がりやすい。またLinkがレベルダウンしにくくなる。ケアはLinkを選択した状態で表 示されるLinkメニューから行う。
    COMCO
    COMCO
    Fusionとその効果

    内殻のLinkのうち、一定の条件(次の項目を参照)を満たすものとFusion(融合)することができる。
    Fusionした相手のリンクは最初、自明な結び目として表現される(図4)。
    その効果は以下の通りである。

    1. メッセージの文字数が増える(最大32文字)。
    2. Fusionした相手の内殻のLinkが取りこめる。
    3. 最大Link数が増加する(相手のキャパシティの半分が追加される)。
    Fusionの制限

    以下の場合、Fusionできない。

    1. 双方のリンクが内殻レベルでない場合
    2. 内殻に上がった直後のリンク
    3. あらかじめプログラムされた相性の悪いKnot同士の場合
    (3)の場合Fusionするための方策としては次の2つがある。

    1. どちらかが別系統の進化をする。

      Knotメニューから「スローバック」を選ぶと自分のKnotは一つ前のレベルに下がり、次のレベルアップの時に違う形態の成長をする。

    2. どちらかがレベルアップするまで待ち、もう一度試してみる。
    Fusionの成長

    Fusionした相手との関係の深さはジャックおよびメッセージ交換の頻度、共通のリンクの数によって変化する。この成長の度合いを結び目同士の交差点の数で表現する。
    結び目理論では絡み数というパラメータを用いるが、ここでは視覚的に理解しやすいように、単純な結び目同士の交点の数を利用する。
    図5はFusionの成長を概念的に示したものである(ユーザーのKnotが三葉結び目から始まるので図の左側のような進化はしない)。

    基本操作

    Knotに対する操作

  • 情報の表示(Knotのレベル、現在のLink数、経験値の表示)
  • 情報の書き換え
  • スローバック(throwback):一つ前の結び目の形に戻る。
  • チームの編成:ゲームで使うLinkチームを作る(3つまで登録可能)。
  • Linkに対する操作(Fusionに対する操作も基本的に同様)
  • メッセージの送信
  • 最後のメッセージを表示
  • 情報を見る
  • ケアをする
  • COMCO
    COMCO
    COMCO
    メッセージ交換機能

    ダイレクトメッセージ

    個々のCOMCOにはユーザーに対して隠蔽された固有のS/Nが与えられており、それによってメッセージの送信先を特定する。ユーザーの操作は相手を指定し、メッセージを入力するのみで、番号をダイヤルする必要はない。
    メッセージの送信

    1. 送信相手を決める
    2. リンクメニューから「メッセージ送信」を選択
    3. メッセージの入力(文字表は相手リンクのレベルによって自動的に変わる) 文字表をスクロール、Aボタンで確定、Bボタンで1文字削除、確定後Aボタンで送信、Bボタンでキャンセル
    4. メッセージ送信
    5. メッセージが届かない場合ユーザーにAlertメッセージを表示する。
    6. 標準画面へ
    メッセージの受信

    メッセージが受信された場合、ベルもしくは振動によってユーザーに通知する。

    スリープ中の場合:自動的に復帰し、メッセージを表示
    標準画面の場合:同上
    操作中の場合:送信元のニックネームを表示し、メッセージの表示はしない(標準画面に戻ると表示)。

    メッセージ受信画面でAボタンを押すとメッセージ入力画面に移行し、相手に返事を書ける。Bボタンの場合、標準画面に戻る。
    COMCO内部でのLinkのレベルはそのLinkの相手のCOMCO内での自分のLinkのレベルと、完全には一致しない。そのためメッセージの受信機能にはLinkのレベルによる差は設けないものとした。ただし消滅したLinkからのメッセージは受け取れないものとする。

    ボーナスゲーム

    ジャック時に相手とゲームをすることができる。ゲームによる得点は経験値に換算され、Knotの成長を促進する。

    オートスリープ<

    リセット

    ボディ底面のリセットスイッチを細い棒で押す。

    コスト設定

    購買層を広げるためCOMCOの単体価格を低く設定する必要がある。また利用に際して電話回線を利用するので、利用料金を徴収するシステムが最適である。基本的な方針は次の通り。

    本体価格
    3,000〜5,000円程度
    月額使用料金
    500〜800円程度
    メッセージが文字のみなので通信時間は電話に較べ無視できるほど短いと思われる。そこで従来の従量制を排し、月額固定料金のみとする。
    徴収方法
    コンビニエンスストアを利用したプリペイド方式
    電池蓋の裏面に貼られたバーコードによりその個体のS/Nを特定し、管理する。
    料金の妥当性については今後、詳細なマーケティングが必要である。
    主要スペック

    液晶1.8型TFTカラー(256色表示)
    バッテリーアルカリ単4乾電池×4本
    外形寸法(mm) W70×H70×D32
    重量(g)220(バッテリー含む)

    参考文献

    「組みひもの数理」河野俊丈 遊星社
    「結び目理論入門」鈴木晋一 サイエンス社


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