[The University Museum]

隕石


序論

広大な宇宙の中にある無数の銀河系の一つ。 その片隅で、今から46億年前、一つの星が産声をあげた。太陽の誕生である。 以来、太陽系は進化を遂げ、現在の姿に到っている。 「太陽系はどのように物質進化を遂げたのか?」 我々の住む地球は誕生以来激しい変動を経験し、 初期の情報を失ってしまった。 アポロ計画で持ち帰られた月試料を除けば、 我々が地球以外の物質で手にすることができるのは隕石だけであり、 この疑問に答える事ができるのは隕石である。

[ida と dactyl の衛星写真の画像]
ida と dactyl の衛星写真

ida:58×23×?km
dactyl (idaの衛星) :1.2×1.4×1.6km
画像の右端に見られる小さな天体が ida である
(写真提供:NASA)

隕石はその進化の度合いに応じて大きく2種類に分類される。 1つは、隕石母天体上で溶融・分化を経験していないと考えられる コンドライトである。 他は、母天体上で溶融・分化を経ている 非コンドライト (エコンドライト・石鉄隕石・鉄隕石のグループ) である。 コンドライトや多くのエコンドライトが約46億年の生成年代を示すことは、 これらの隕石が、 太陽系初期における物質の生成・分化の記録を留めていることを示している。

太陽系の出発点は原始太陽系星雲であり、 この高温の星雲がスから様々な物質が凝縮・集積し隕石の母天体ができ、 母天体上で様々な変成作用があった。 このような過程を経てコンドライトの母天体が生成した。 また、中には、かなり大きな天体にまで成長したものもあった。 そのような母天体上では、様々な熱源によって集積した物質が溶融し、 溶液の中から結晶化する過程で分化が起きた。 表層では、地球の地殻に似た原始的地殻をもった隕石母天体もできた。 惑星の特徴をもった原始的なエコンドライトの母天体である。

[gaspra の衛星写真の画像]
gaspra の衛星写真

gaspra : 19×12×11km
(写真提供:NASA)

これらの母天体上に隕石が衝突し、その衝撃で岩石片が母天体から放出され、 軌道に乗って地球に落下したものが隕石である。 火星と土星の間には、小惑星領域があるが、これらは、 惑星になりそこなった原始惑星や微惑星の残りの物質であり、 隕石の起源をこの小惑星に求める考えが一般的である。


展示隕石解説

1. コンドライト

コンドライトと呼ばれる隕石グループの特徴はコンドルールと呼ばれる 0.1mmから数mmの球状の物質を含むことであり、 このような球状体は地球の岩石には見られないものである。 コンドライトの化学組成を調べてみると、 太陽を取り巻く高温のガスから水素やヘリウム等の揮発性の元素を除いたもの の化学組成によく似ていることから、 コンドライトは始源的な未分化の隕石で、 原始太陽系星雲の中で惑星が形成されていく初期の段階の情報を 保持していると考えられている隕石である。

(1) 炭素質コンドライト (Allende隕石)

[Allende隕石の画像]
Allende隕石

大きさ 50×40×30mm
落下・発見年代 Fall:1969.2.8
落下・発見場所 Allende, Chihuahua Mexico

ここに示された炭素質コンドライトはAllende隕石と呼ばれる、 最も有名で、隕石研究に最も大きな影響を与えた隕石である。 この隕石は1969年2月8日午前1時頃、 メキシコ北部のチワワ州アエンデ村に落下した。 落下にさいして、非常に強い光と爆発音が観察され、 新聞が読めるほどの光とダイナマイトが爆発したときのような 爆発音であったと記録されている。 総重量で2トンを越える隕石であった。 標本の中に球状のコンドルールの他に白色の包有物が見られるが、 この包有物はCAIと呼ばれ、 カルシウムとアルミニウムに富んだ鉱物を含み、 太陽系星雲のガスから凝縮された高温凝縮物と考えられている。 太陽系形成初期の情報を持つ炭素質コンドライトは最も始源的な隕石である。

(2) 普通コンドライト (Bremervoerde隕石)

[Bremervoerde隕石の画像]
Bremervoerde隕石

大きさ 20×15×5mm
落下・発見年代 Fall:1855.5.13
落下・発見場所 Gnarrenburg, Niedesachsen Germany

この普通コンドライトはBremervoerde隕石と呼ばれ、 分類上H3に属する。 Hはカンラン石・輝石中の鉄・マグネシウム比や隕石に含まれる 金属鉄の量から、また3は岩石学的特徴から分類された名称である。 この隕石は1855年5月13日ドイツの ニーダーザクセン州グナレンブルグ村近郊に大音響と共に落下した。 少なくとも5個の隕石が回収され、総重量は約7.25kgである。

標本中には明瞭なコンドルールの他に金属色に輝く鉄・ニッケル鉱物が見える。 ほとんどの普通コンドライトには炭素質コンドライトに含まれていた 揮発性成分は含まれておらず、集積後に熱変成を受けたと考えられている。

2. 非コンドライト

コンドルールを含まない石質隕石であるエコンドライト、石鉄隕石、 鉄隕石のグループ。 隕石母天体がある程度の大きさになると、 様々な熱源 (例えば放射性元素の壊変熱や隕石の衝突熱など) によって、 物質は溶解し、結晶化に際して物質の分化が起こる。 このような分化過程を通して原始的な地殻を持つような 原始惑星が出来たと考えられる。

(1) HED隕石 (Millbillillie隕石)

[Millbillillie隕石の画像]
Millbillillie隕石

大きさ 100×100×40mm
落下・発見年代 Fall:1960.10.?
落下・発見場所 Wiluna, Western Australia Australia

HED隕石は エコンドライト母天体の原始地殻に由来すると考えられており、 月や地球の地殻と関連が深い。 ここに示した隕石はHED隕石の中のeucriteに分類される Millbillillie隕石と呼ばれる隕石で、 オーストラリアの西部の砂漠地帯に1960年10月に落下した (落下日は不明) 。 隕石の落下は光と共に確認されたが発見は10年後であった。 回収された隕石の総重量は少なくとも25.4kgである。 最近では、HED隕石の母天体として小惑星のベスタが考えられている。

(2) SNC隕石 (Nakhla隕石)

[Nakhla隕石の画像]
Nakhla隕石

大きさ 15×10×5mm
落下・発見年代 Fall:1911.6.28
落下・発見場所 Abu Hommos, Alexandria Egypt

SNC隕石はその岩石組織が火山岩的であることと 生成年代が13億年前と他の隕石に比べて非常に若いことなどから 火星起源の隕石であると考えられている。 隕石中の希ガス組成が火星の大気の成分と類似していることも 火星起源を支持している。 最近南極から回収された隕石の中に生物の痕跡が発見されたと 話題を呼んでいる隕石もこのグループに属している。 ここに示した隕石はNakhla隕石でnakhliteグループに属し、 SNCのNは、その頭文字から採られている。 エジプト・アレキサンドリアの近郊アブホモスに 1911年6月28日午前9時に落下した隕石で世界でも 数少ないSNC隕石の一つである。総重量は約40kgであった。

(3) 石鉄隕石 (Imillac隕石)

[Imillac隕石の画像]
Imillac隕石

大きさ 70×60×5mm
落下・発見年代 Found:1822
落下・発見場所 Atacama Desert, Atacama Chile

石鉄隕石は、その名前のようにニッケルを含む金属鉄と珪酸塩鉱物が 共存する隕石であり、物質分化の点から重要な隕石グループであるが、 未知な点が多く残されている隕石である。 ここに示した隕石はImillac隕石で pallasiteと呼ばれるグループに属する。 金属鉄の中に大きなかんらん石の結晶が散りばめられたようにあるのが 特徴である。 この隕石は南米チリのアタカマ砂漠で1822年に発見された。総重量は不明。

(4) 鉄隕石 (Gibeon隕石)

[Gibeon隕石の画像]
Gibeon隕石

大きさ 200×120×3mm
落下・発見年代 Found:1836
落下・発見場所 Great Nama Land Namibia

鉄隕石は主に鉄とニッケルの合金からなっており、 この鉱物は地球では発見されていない。 隕石母天体上での物質分化の結果、鉄・ニッケルが集まったものと 考えられる。 最大の鉄隕石は60トンに達するものがある。 ここに示した隕石はGibeon隕石で 1836年にナミビアで発見された隕石である。 1トン以上の試料を所蔵する博物館もある。 回収された隕石の総重量は10トンを越える。 鉄隕石を適切な方位で切り出し酸でエッチングすると、 ウィドマンシュテッテン組織と呼ばれる模様が見られる。

(田賀井 篤平)


[編者注] この展示内容に関する最新情報や関連資料等は、随時、 東京大学総合研究博物館のインターネットサーバ上の 以下のアドレスで公開、提供していきます。

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