第5章 プロジェクト「展示ケース」


 展示空間の壁や天井に白や灰などの中間色が使われ、展示ケースが多くの場合に立方体や直方体、いずれにせよ規則的な形態を採るのは、多目的な用途に応えるためという実利的な思想の現れである。すなわち、白色系の中間色であればどのような色の展示物も無理なく受け入れるであろうし、また透明の方形ボックスであれば平面であれ立体であれ大方の展示物を収納できるであろう、というのである。たしかに、これにも一理ある。がしかし、それは一個の思い入れであり、それを絶対とする理由はどこにもない。

 われわれが考案した多様な展示ケースは、たしかに、その免震性や安定性、さらには実用性などの点でいまだ多くの未解決な問題を持ってはいる。しかし、不規則な形態が幾何学的な形態よりもはるかにソフトな感覚を有し、それがためにより人間的なフォルムであることが理解できるのではないだろうか。


 今回の展示にさいしてわれわれは、安田講堂3階の外縁部を巡る周歩廊という、かなり異例の空間を展示場として利用することになった。断面の縦横4メートルという「ウナギの寝床」型の、しかも円弧型に湾曲した細く長い白色空間。そこに同一形態の方形ボックスの並ぶことを単調と考えたわれわれは、斜方体の台座を用いた展示ケースを考案し、それらの巧みな配置から生じる斜方向のムーヴメントによって、空間を活性化することを試みた。立方体を上下方向に強く圧縮したときに生じる形態を採り入れた台座は、ある種の規則性をもって並べられたときに、心地よい律動感と揺動感を生み出すはずである。

 また、全体をアクリル素材で製作した変形ケース、さらにはそうした変形ケースの大小を入れ子にした二重ケースも試みた。こうした用途におけるアクリル素材の汎用性や可塑性はよく知られているが、そればかりでなくこの合成素材は光の伝達にも効果を発揮する。すなわち、斜方体の一辺の小口部に蛍光性のカラー・アクリル帯を埋め込むと、他の辺の小口部にも蛍光アクリルの色が映り込む仕掛けである。観者の視点に応じて微妙に移ろい動くイリュージョニスティックな光の帯は、透明な箱にあえかな輪郭を与えると同時に、観者に見ることの悦びを与えるだろう。(西野)


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展示ケース素案

 
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