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平成14年度学芸員専修コースから

新規収蔵品を用いた展示共同制作実験

西秋 良宏


写真1 標本を説明する小田氏(左。写真は全て事務部柳川圭介氏撮影)
写真2 イースター島モアイ像の木製模型
東京都教育庁に勤務されている考古学者、小田静夫氏から、ご自身が南太平洋各地で集められた考古民族コレクションを寄贈いただいた。2002年8月のことである。石槍や石斧、釣り針、錘、儀礼用仮面、人肉調理器具、さらには鉱物・貝殻標本、カラフルな観光パンフレットまで内容は多彩、写真を含めれば全部で700点近くあった。東南アジアのフィリピンからフィジー、タヒチ、ハワイ、マルケサス等々、そしてポリネシアの果てイースター島での採集品にいたるまで1980年代に小田氏が駆け抜けた南太平洋各地の標本が満載であった。

 小田氏の収集ぶりはブルドーザーにもたとえうる。アンティークショップで売られる石器時代考古遺物とそのムラージュ、現地の人々が伝統技術を用いて小田氏のために製作したレプリカ、かれらが使用している民族資料、かつて使用していた伝世品、そして大量にある完全な土産物…。大胆なコレクションである。個々の標本の出自を問うてみれば、実は、現代モノではないか、とふつうのミュージアム関係者なら眉をひそめかねないものがかなりあった。

 しかし、見方を変えれば、これらは異色の、空中の考古資料ではなかろうか。小田氏は形を変えつつも今なお石器時代が息づいている南太平洋の「現代」を、考古学者の目で「発掘」したのである。南洋の小さな島々に住み着いた勇気ある人々の歴史や生態を学ぶ教材としてだけでなく、このコレクションは伝統工芸の継承の仕様や変化、過去を売り物にした観光産業の展開と離島の経済等々、石器時代が色濃く残った20世紀末の南太平洋社会を読み解くための一級資料として役立てうる。

 そんな思いを抱きつつ、10年目を迎えた本館の全国学芸員リカレント教育、「学芸員専修コース」では、新企画としてこの寄贈資料の共同展示をとりあげてみた。そして、小田コレクション展を共同制作し展示制作にかかわる諸問題を一緒に議論してみませんかと呼びかけたところ、全国各地で活躍なさっている現役の学芸員の方々ら15名の参加を得た。会場としたのは新規収蔵品展示コーナーの一室、担当になった筆者が用意した展示タイトル案は「20世紀の石器時代」であった.。

 展示品や企画趣旨についての2日間の講義・討論の後わずか2日半の作業(2002年11月11日〜15日)。使用できる材料は手持ちの中古展示品と館蔵の備品。受講者はいずれも初対面の方々ばかりである。きびしい条件の中、さすがに責任感あついプロの学芸員である受講者諸氏は日程通りに展示を組み上げてくださった。博物館側は原案をほのめかしはしたが無理強いはしなかった。

その結果、上記した少々ひねくれた、そしてわかりにくい筆者の腹案は葬り去られ、展示タイトルも変更されることとなった。新しい展示タイトルは「『モノ』は私のフィールドノート」。小田氏が本誌19号に執筆したコレクション解説の原題を採用したものである。ホームページなどで予告しておいたタイトルが変わってしまったのは、そうした経緯による。もちろん変更は、同じコレクションを前にしても展示の切り口は常に多様であること、また参加者各位が主体性豊かに取り組んだことの証にほかならない。

 コース最終日には当館のボランティア、教職員、関係者の方々を招いたミニ内覧会を開き、展示についての率直な感想を「匿名」にてお聞かせいただき議論する時間をもった。中にはすぐに採用しうるような提案もあった。また、制作者の側に時間不足による不完全燃焼の感が残っていたことは事実であるし、終了後にひらいた近所の居酒屋での反省会で新しいアイデアが出されたりもした。

しかし、展示はあえて会期中(2002年11月18日〜12月19日)そのままにさせていただいた。もっと多くの批評を来館者からいただき、それを参加者各位そして企画者が展示づくりのプロセスを研究する材料にしてみたいと考えたからである。

 そもそも今回の企画は私どもを含めた博物館担当者が抱える共通の懸案事項、すなわち、どうしたら独創的・刺激的な企画展を開催できるか、という日頃の悩みを解消できるようなヒントを実地の交流を通して模索することにあった。受講者の反応は好意的であつた。この企画に何年か続けて参加すれば、確実にそのような手がかりを得られるに違いない。

そう感じたのは今のところ独りよがりな担当者だけかもしれないが、いずれ多くの受講者にとってそうなるような企画に育てるべく、今回の試みの内実は分析され改善される価値があると正直、思う。学生用教材として受け入れた小田コレクションで学んだものは企画者の側にとっても甚大だったわけである。

 貴重な標本を寄贈してくださった小田氏、ハードな企画に熱意をもって参加してくださった受講者の皆様に厚く御礼申し上げる。また、2002年12月20日におこなった展示撤収作業にも受講者有志の方々がご参加くださったことを申し添えておきたい。

写真3 展示準備風景
写真4 完成間近の展示室

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(本館助教授/先史考古学)

 

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Ouroboros 第20号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成15年2月14日
編集人:西秋良宏/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館