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地史古生物部門保存のボーリングコア

歌田 実


数1000m級のボーリング削除塔 ボーリングコアの例
熱水の通路となっていた割れ目がよくみえる
 

ボーリングコアの学術的意義

地球に関する研究は地域的なものから汎世界的なものへ、現在から過去へと展開し、近年は地球誕生以来の約45億年の歴史を概略追うことができるようになった。この成果は主として地表に露出している岩石の分析に基づいている。地球の内部についても地表岩石との比較から、物理学的な手法により間接的にその構造を推定してきたが、地球深部の物質をボーリングにより直接採取して分析するに越したことはない。現在のボーリングの技術では、最深でたかだか8000m程度であるが、それからもたらされる地球内部の情報の価値は計り知れない。

現在の地球表層が、大陸内部、大陸縁辺の島弧、海洋などのように分かれていることを考えると、地球内部の地域的不均一性も当然予想されるところである。大陸縁辺島弧の代表であるわが国の場合、その深部構造や岩石は如何なるものであろうか。わが国では、静岡大学・新妻信明教授を中心に学術ボーリングの重要性が指摘され、10km級ボーリングの実施に向けて活動を始めて既に10年以上が過ぎているがまだ実現していない。その理由は数10億に達する資金と高温掘削技術開発の問題があると考えられる。

保存ボーリングの概略

これまで、わが国で行われた深部掘削ボーリングは主として戦後資源探査を目的として行われたものであり、そのコアサンプルが多数東京大学総合研究博物館に所蔵されている。その概略は別表の通りである。本年中に、新エネルギー開発機構による石炭開発調査のボーリング7本と私企業によるボーリング1本が加えられる予定であり、サンプルコアの総数は約5万個と算定されている。

上記のボーリングは日本列島全域をカバーするものではないが、地質層序と付随する物理探査、地温、地化学などのデータは日本列島の地下構造の解明に大変に役立っている。これに加え、本博物館では所蔵したコアサンプルのXRDによる構成鉱物分析とXRFによる化学分析をシスティマティックに行っており、前者については約60%が終了している。

上記のボーリングコアが本博物館に所蔵されるに至った経緯は、主として本学の研究者が種々の資源探査の推進に協力した見返りとして寄贈され、保存してきたもので、これだけまとまったコレクションは国内外に類が少ない。


ボーリングコア保管庫
 
石油公団基礎試錐(MITI)41地域41本
金属鉱業事業団による黒鉱鉱床地域ボーリング5地域426本
私企業による北鹿黒鉱鉱床地域ボーリング3企業461本
新エネルギー技術開発機構による地熱開発促進調査ボーリング32地域138本
核燃料・動力炉開発事業団によるボーリング2地域82本
その他3地域3本

所蔵ボーリングコアの利用状況

本博物館が所蔵しているボーリングコアは単に保存しているだけでなく、一部を学内外の研究者の研究に供している。その利用状況は、黒鉱鉱床や地熱鉱床の鉱床学的研究に用いられているだけでなく、堆積学的研究や粘土鉱物、ゼオライトなどの鉱物学的研究に用いられ、これによって学位を得た研究者も数人いる。その中でも千葉大学・井上厚行教授の行った粘土鉱物のスメクタイトからイライトへの連続的変化の研究は、ボーリングコアがなくては成し得ないものであり、世界から高い評価を得ている。このため、本博物館所蔵のボーリングコアは世界の研究者の利用希望が多く、保存との兼ね合いが難しい状況が生まれつつある。しかし、これは大学博物館としては本望とも言えるものであるかも知れない。

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(本館専任教授/地質学)

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Ouroboros 第2号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成8年11月30日
編者:西秋良宏/発行者:林 良博/デザイン:坂村 健