第2部 展示解説 動物界 軟体動物の分類と系統関係 腹足綱 (Class Gastropoda)
直腹足亜網 (Subclass orthogastropoda): Apogastropoda: 異鰓上目
有肺類 (Pulmonata): 陸生の腹足類の多くが有肺類に属する。眼は収縮性のある触角の基部、または先端にある。外套腔は肺嚢になり、呼吸孔を通じて開く。神経系は発達し、脳神経節の前側に前脳 (procerebrum) と呼ばれる部分が形成される。植物食の種が多いが、一部は肉食である。すべて雌雄肉体である。有肺類の名称、は、「肺」を意味するラテン語の Pulmo に由来する。 以下の分類は Beesley et al. (1998) の分類に従う。 Solem(1978) 、 Hubendick(1978)の分類を基本とし、 Haszpunar and Huber(1990) と Nordsieck(1992) による変更を加えたものである。有肺類は下記の 3つの目に分類されている。 (1) 収眼目 (Order Systellommatophora): 体はナメ クジ状で、大部分の種では殻が無い。外套腔は退化的であるか全く失われている。頭部には 1対の頭部触角がある。肺は体の後側に位置するか、または欠いている。 虹門と排出孔は体の後端に聞く。裸形類 (Gymnomorpha) と呼ばれることがある。かつては、後銀類と有肺類の中 間的な存在であると見なされたことがあった。しかし、神経系の構造により現在では有肺類として扱われている Haszprunar and Huber,(1990) 。 収眼目は 3上科に分類されている。 Otinoidea の Dtinidae はハナヅトガイのような形をしている。 Smeagolidae はオーストラリアとニュージーランドに分布 するナメクジ状のグループである。イソアワモチ上科 Onchidioidea のイソアワモチ科 Onchiidae は、潮間帯〜潮上帯の岩礁に生息する。殻が無く、体の背面は肉帯によって覆われる。肉帯の表面には多数のいぽ状の突起をもつが、その中には外套眼が存在している。加えて頭部にも眼をもっており、起源の異なる光受容器官が 1つの動物体の中に同時に存在している。 Rathousioidea はナメクジ状でやや細長い形をしている。 Rathouisidae とマシヒダナメクジ科 Veronicellidae が含まれている。足裏は足溝 (pedal groove) によって明瞭に分離されている。 足襞類 (Soleolifera) と呼ばれることがある。 (2) 基眼目 (Order Basommatophora): 殻をもち、陸生または水生である。頭部触角は 1対で、眼は頭部触覚の基部にある。頭部触角は体の中に引き込むことができるが、柄眼類のように反転はしない。生殖器の開口部は雄性の開口部と雌性の関口部の 2つに分かれている。貝殻は背の高いものから、平巻、笠型まで様々である。水生の種では 2次鰓を発達させるグループがある。過去の分類体系では、海産のグループを原始有肺目 (Archaeopulmonata) 、淡水産のグループを肺鰓目 (Branchiopulmonata) と分類されていたが、現在では認められていない。 ウミマイマイ上科 Amphiboloidea のウミマイマイ科 Amphibolidae はタニシ型の殻をもつ。殻口を完全に閉じることのできる蓋をもっているが、成体で、蓋をもって いる唯一の有肺類である ( 佐々木 ,2002: 図 2-74) 。海産で干潟に生息する。カラマツガイ上科 Siphonariddea の カラマツガイ科 Siphonariidae の殻は笠型で、温帯 〜熱帯の潮間帯の岩礁に多産する。呼吸孔が聞く部分では貝殻筋が途切れており、筋痕がC字型に見える。また、その部分だけ貝殻の放射肋が強く突出するため、殻が左右非相称になる。食性は藻食。多くの種が帰家行動 を示す。英名は false limpet と呼ばれるが、カサガイ目の笠型貝 (true limpet) に対して、系統的に異なる偽物 のカサガイ類という意味である。モノアラガイ上科 Lymmeoidea のモノアラガイ科 Lymnaeidae は陸産のオカモノアラガイ類と類似しているが、眼の位置が触角の基部にあるため異なる。カワコザラ科 Ancylidae( 図 32A) の殻は笠型でわずかに右巻に見える。ヒラマキガイ科 Plmorbidae では、多くの種は平巻 ( 図 32C) である。 カワネジガイ Camptoceras hirasei (図 32B) では著しく殻頂が高い。ヒラマキガイ類は見かけ上は右巻きに見 えるが、動物体の構造は左巻である。 (3) 真正有肺目 (Order Eupulmonata): 通常らせん状の殻をもつが、ナメクジのように殻を 2次的に失ったものも多い。目は触角の基部にあるか、先端にある。先端にある場合、触角は反転して体の中に収納される。蓋は成体 にはない。外套腔は閉じて、呼吸孔によって外界と通じ、呼吸孔は開閉することができる。外套腔内には嘆検器と繊毛帯を欠く。下記の 3つの亜目に分類される。 Suborder Actophila: オカミミガイ上科 Ellobidea のオカミミガイ科 Ellobiidae は殻口に歯を形成する ( 図 33A-B) 。潮間帯の上部〜潮上帯にかけて分布する。 ユキカラマツガイ亜目 (Suborder Trimusculiformes): ユキカラマツ科 Trimusculidae はカラマツガイ科 Siphonariidae に類似するが、両者は筋肉の付着部の形態が異なっている。カラマツガイ科では筋肉痕は右側に開くが、この科では前側で聞いている。さらに C字状 に連続しておらず、途中で途切れて 3つに分かれている。 柄眼亜目 (Suborder stylommatophora): 柄眼亜目は「カタツムリ」や「マイマイ」と呼ばれる陸貝の大部分を含む。頭部触角は大触角、小触角の 2対あり、大触角の先端に眼がある。生殖器の開口部は 1つである。 貝殻の形は、平巻のものであるか、背が高く細長いものが多い。伝統的な分類体系では、柄眼類は輸尿管の配置によって 3つのグループに分類されている。 直輸尿管下目 (Infraorder Orthurethra): 腎臓から伸ぴる輸尿管は外套腔の中で湾曲せず、前方にまっす ぐに伸びる。 ortho- は「まっすく」 、 urethra はラテン語で「尿管」 ( 英語で、は ureter) を意味する。ハワイマイマイ科 Achatinellidae ではハワイマイマイ類 Achatinella が ハワイに多くの種が分布している。ノミガイ科 Elasmatinidae( 岡 34A) は内唇に 1つの微小な突起がある。 ヤマボタルガイ上科 Cionellidea のヤマボタルガイ科 Cionellidae では、ヤマボタルガイがヨーロッパから日本にまで幅広く分布する。サナギガイ上科 Pupilloidea には小型で殻口に歯のような突起をもつグループが多い ( 図 34B-35D) 。サナギガイ科 Pupillidae 、キパサナギガイ科 Vertigirlidae 、スナガイ科 Gastrocoptidae 、クチミゾガイ科 Strobilopsidae 、ミジンマイマイ科 Vailoniidae 、 ナタネガイモドキ科 Pleurodiscidae などが含まれる。 ポリネシアマイマイ上科 Partuloidea のポリネシアマイマイ科 Partulidae は殻口が厚くなり外側に反り返る。熱帯太平洋の島々に多くの種が分布する。キセルガイモドキ科 Enidae は、キセルガイ科を右巻きにしたような殻形をもっている。日本産の種の殻口は単純に肥厚するだけであるが、海外産の種には殻口に歯のできる種、左巻 きの種など様々な形態が見られる。 中輸尿管下目 ( Infraorder Mesurethra): 腎臓は外套腔の中程に開口し、長い輸尿管は形成されない。 「Mesurethra 」の名称は meso-( 中 ) と urethra ( 尿管 ) に由来する。キセルガイ上科 ClausiIbidea のキセルガイ科 Clausiliidae は殻口を閉じるための閉弁をもつ。 オオタ ワラガイ科 Cerionidae はカリブ海周辺に分布する。 曲輸尿管下目 (Infraorder Sigmurethra): 腎臓から伸びる輸尿管は一旦折れ曲がってから、前方へ伸びる。 輸尿管の開口部は外套膜の末端部に達している。 「Sigmurethra」の名称は sigma ( ギリシャ文字のシグ マ : 英語の S次状湾曲部 sigmoid の語源 ) と urethra ( 尿管 ) に由来する。アフリカマイマイ科 Achatinidae はアフリカ大陸に分布し、巨大な種が多い。オカクチキレガイ科 Subulinidae の日本産の種は小型であるが、ブラジル産の Obeliscus( カラー図 16C) や Neobeliscus は大型である。ネジレガイ科 Strepetaxidae は、殻軸が大きくねじれる種が多い。しかし、日本産のタワラガイ類 Sinoennea 主殻軸がまっすぐである ( 図 35B) 。ヌリツヤマイマイ科 Rhytididae では、ニュージーランドに固有のヌリツヤマイマイ類 Paryphanta が有名である。アカマイマイ科 Acavidae は熱帯域に広く分布する。マダガスカルには Ampelita や Helicophanta などの大型の種が多数生息する。アカマイマイ類 Acavus はスリランカに多産する。 オニグチギセル科 Odontostomidae は南アメリカに固有のグループである。殻口に顕著な歯状突起を形成する (佐々木 ,2002: 図 2-17) 。プラジル産の Anostomaは螺管が殻 頂方向を向く奇妙なグループである。サラサマイマイ類 Orthalicidae は熱帯中南米に多い。サラサマイマイ類 Orthalicus やイトヒキマイマイ類 Liguus が有名である。トウガタマイマイ科 Bulimulidae では、ホカケマイマイ類 Cochlorina は殻が押しつぶされたような奇妙な形をもつ( 佐々木 ,2002: 図 3-16A) 。南太平洋の島々には大型の Placostylus の種が多数分布する。オオサナギガイ科 Urocoptidae はジャマイカやキューバなど熱帯中央アメリカ に多く、殻口がはずれる種が多い ( カラー図 16A-B, 図 35C)。 殻の内部の殻軸にはひだがあり、重要な分類形質であるが、それは外からは見ることができない。ナメクジ類は多くの科に分類されているが、異なる分類群が独立に何度も殻を失っていることを意味している。ナメクジ化した種は、オオコウラナメクジ科 Arionidae 、コウラナメクジ科 Limacidae, ニワコウラナメクジ科 Milacidae など、多数の科に見られる。ベッコウマイマイ科Helicarionidae( 図 35A) は日本では小型であるが、熱帯域ではかなり大型になる。マラッカベッコウ科 Ariphontidae( カラー図 15A) は東南アジアに分布する。 ナタネガイ科 Punctidae 、パツラマイマイ科 Discidae 、コ ハクガイ科 Zonidae もベッコマイマイのような平巻の殻をもつが、隣孔が大きく開いている。オカモノアラガイ科 Succineidae は異輸尿管類 (Heterurethra) として区別されることがあるが、曲輸尿管類のひとつのタイプと見なされる。典型的な曲輸尿管類では曲輸尿管が後方へ 強く湾曲して前方へ向かうが、異輸尿管類では湾曲が弱い。アメリカマイマイ科 Polygyridae は北米に分布し、殻口に奇妙な突起や歯ができる種が多い。 Oleacinidae ヤマヒタチオビ科のヤマヒタチオピ Euglandina rosea (佐々木 ,2002: 図 4-8) は肉食性で、世界各地に移入さ れている。ナンパンマイマイ科 Camaenidae は、日本産の種ではニッポンマイマイ属 Satsuma 、ドングリマイマイ属 Coniglobus 、オキナワヤマタカマイマイ属 Luchuhadra、 ビロウドマイマイ属 Nipponochloritis が種数が多い。カ リブ海の周辺には Pleurodonte 属の種が分布し、殻口に厚い歯状突起をもつ( 佐々木 ,2002: 図 2-15) 。マレー マイマイ類 Amphidromus( カラー図 15B) は東南アジアの熱帯域に分布し、殻高が高く、派手な色彩をもつ。 パプアマイマイ類 Papuina ( カラー図 15C) はニューギ ニアからソロモン諸島にかけて多くの種が分布する。 オナジマイマイ科 Bradybaenidae は、日本産の種では、 オオベソマイマイ属 Aegista、オトメマイマイ属 Trishoplita, Euhadra が種数が多い。海外産のグループではゴシキマイマイ類 Cochlostyla 、タケノコマイマイ類 chrysalis などがフィリピンの周辺に多い。コダママイマイ科 Helminthoglyptidae ではコダママイマイ類 Polymita ( 佐々木 ,2002: 図 3 -16B) が有名である。球状の殻に美しい色彩をもつ。 Helicidae は種数が多く分布域も広いが日本には分布していない。 Helix pomatia は食用カタツムリとして広く利用されている。
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