まとめ

五十嵐コレクションと須田コレクションを通して眺めると,この70年間で東京の昆虫がいかに激しい環境の変化をこうむったかがよくわかる.大きな波は太平洋戦争時代の東京大空襲,戦後の薬剤散布,東京オリンピックによる東京改造,その後の大都市化と環境汚染などである.このような大変化によって完全に消滅した昆虫も少なくない.しかし,一部の種類の昆虫は都市環境でも生き延び,いくつかのものは生活様式を変えることによって環境変化を乗り切った.そのことを思えば,現在東京に生きている昆虫たちは,よくぞ生き延びてくれたと賞賛したくなるほどである.もの言わぬ昆虫たちは,身勝手な人間に不平をいうこともなく,ただひたむきに自分たちの生をまっとうしているだけだが,その盛衰は私たち人間の生活をリアルに映し出している.さいわい最近になって少なからぬ種類の昆虫が回復の兆しを見せている.これからの東京人は,これら小さな生存者たちを,ときには立ち止まって観察できるだろうか.

謝辞

本展示にあたっては五十嵐仁氏,飯野徹雄氏,杉並区立郷土博物館,井の頭自然文化園に貴重な標本や資料を提供頂きました.また展示準備では須田真一氏,須田研司氏,横田千佳さん,石井雅樹氏のご協力を得ました.東京都と朝日新聞社からは写真を提供して頂きました.






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