当標本(UMUT MV 19965)は北海道小平町の小平蘂川上流の中部蝦夷層群から1990年に東京大学の調査隊によって発見されたもので、1990-99にかけて発掘された。
保存部位は頸椎、胴椎、仙椎、尾椎が合わせて12個、胸帯と腰帯の右半分、肋骨、ほぼ完全な右前肢などからなる。椎骨や前肢関節が外れていること、現在の海底に見られるクジラの遺骸に群がる動物相に類似した軟体動物類の化石が見付かることなど、化石化に至るまでにはある程度時間がかかった様子が伺える。腹部からは小型のアンモナイトの顎器が集中してみつかり、胃の内容物であったと考えられる(Sato and Tanabe, 1998)!
長頚竜類内部の系統分類はまだ確立されていないが、首の特に長いタイプ(プレシオサウルス科エラスモサウルス科など)と比較的短いタイプ(プレシオサウルス科、ポリコティルス科など)がジュラ紀・白亜紀を通じ生息していたことが知られている。本標本は長頚竜類の中でも比較的首の短いポリコティルス科に属する固体で、骨化が進んでいる状態などから成体であると判断されるにもかかわらず、北米などから報告されている同科の他標本と比較すると小型である。現在(1999年2月)のところ東アジアではこの科の化石として報告された唯一のものであると同時に、同科の化石記録としては比較的古い(約9300万年前)のものである。
(Plesiosauria : Family Polycotylidae)
長頚竜(首長竜、プレシオサウルスとも呼ばれる)は中生代に繁栄した爬虫類の一種である。長い頚、ひれ状の手足、板状に広がった胸と腰の骨などを特徴とする海生爬虫類で、その化石は日本を含む世界各地の中生代の堆積物から知られている。大型のものでは全長が10m以上に達し、その分布は世界的なものであったが、恐竜やアンモナイトと同様に白亜紀末の大絶滅(約6500万年前)の際に姿を消した。
その名の示す通り首の長い爬虫類ではあるが、一般には首の特に長いタイプと比較的短いタイプに大別される。展示標本は首の短いタイプの比較的小型の個体である。
長頚竜全体の記録の中では後期のものとなるが、ポリコティルス科の化石として知られているものでは初期のもので、この科の東アジアにおける唯一の化石記録である(1999年2月現在)。
保存部位は椎骨の一部、胴体の右半分、ほぼ完全な右前肢などを含む。腹部からはアンモナイトの顎器が集中して見つかっており、胃の内容物であったと考えられる (Sato and Tanabe, 1998)。