東京大学総合研究博物館

「骨〜かたちと機能を支えるシステム」

展示解説


骨とヒトの形態 〜 頭蓋骨の地域差

  1. ヨーロッパの現代人(ドイツ)
  2. 南アメリカ大陸の現代人(ペルー先住民)
  3. 北東アジアの現代人(シベリア、ブリアート)
  4. ポリネシアの現代人(ハワイ先住民)
  5. 東アジアの現代人(日本)
  6. 東南アジアの現代人(ジャワ島)
  7. アフリカの現代人(アフリカ系南米移民)
  8. オーストラリアの現代人(オーストラリア先住民)
  9. 西アジアのネアンデルタール人(アムッド人、模型)

●世界の顔

 人類は今、世界中に拡散しているが、これは数万年前から歴史時代にかけて起こったことである。人類がユーラシア大陸に広範に分布するようになったのは約100万年前ごろのホモ・エレクトスの時代からであり、その時から地域ごとに特徴的な化石人類が知られている。

また、10万年前ごろ以後、アフリカ大陸起源の現代型ホモ・サピエンスの拡散がユーラシア大陸を覆い、以後、オーストラリア、北南米、ポリネシアへと移住が進んだとも思われている。現代人の地域差がどれだけ過去にまでさかのぼるのかはまだ確定できていないが、多くの遺伝子レベルと一部の化石人類の研究によると、地域差は比較的最近、10万年前ごろ以後におおかた形成されたのだろうと言う。いずれにせよ、世界中に分布域を広げた人類は、各地域集団としての特徴を形成していった。

現代人の頭蓋形態における地域差は顕著であり、いわゆる人種ごとの特徴がみられる。特に頭蓋の幅、前頭部の形状、眉間と眉上弓の発達、鼻根部と上部顔面全体の平坦さもしくは突出具合、歯槽・顎骨部の退縮もしくは突出程度などで、世界中の主要地域ごとに特徴的な形態が見られる。一方、多くの集団を用いた比較では、集団間の類似は地理的分布と相関し、遺伝的連続性がうかがわれる。

さらに、現代人全体としての頭蓋形態の変異は一定の範囲内に収まり、ネンアンデルタール人などの化石人類と比べると、むしろその均一性が目立つ。


●骨と人類進化

 サルからヒトへ至る道のりを化石と古人骨によってたどることができる。我々の骨格は進化の過程で様々な変化を体験してきた。中でもはっきり目に付くのは全身にわたる直立二足歩行への適応と頭・顔面部の著しい変化である。直立二足歩行の獲得によって生じた形態変化はチンパンジー、アウストラロピテクス、現代人の比較によって追求できる。約400万年〜100万年前に生息したアウストラロピテクスは既に直立二足歩行に適した骨格構造をもっていたと考えられている。しかし、彼らの頭部は類人猿のように小さかった。約250万〜200万年前にアウストラロピテクスから出現したホモ属では脳は大きくなり、歯と顎は小さくなり、我々ホモ・サピエンスに至る。ホモ・サピエンスの中には頭部は大きいものの現代人とは明らかに異なるネアンデルタール人などが知られている。そうした古い型のホモ・サピエンスの中から現代人特有の頭・顔面部形態が生じた。現代のいわゆる人種差はこの共通パターンのもとでの地域差として理解できる。

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