クリーブランド自然史博物館提供
エチオピア、ハダールの約320万年前の地層から出土したアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の部分骨格標本A.L.288-1(通称ルーシー)の全身復元。アファール猿人の四肢体幹骨の研究で著名なケント州立大学のC.O.Lovejoyとクリーブランド自然史博物館のB.Latimerによる。小柄な大人雌と解釈されており、推定身長は約110cm、推定体重は約25〜30kgである。直立二足歩行への適応が随所に表れている。ただし、下肢長は相対的に短く、ヒトとチンパンジーの中間状態にある。
現代人とアウストラロピテクスの骨盤は、直立二足歩行時に体の重心が効率的に制御される構造になっている。チンパンジーの骨盤は上下に高いのに対し、現代人とアウストラロピテクスでは上下に低く、脊柱の一部である仙骨と股関節を形成する寛骨臼との間の距離が短い。このため、体の前後方向のバランスが取り易くなる。腸骨は寛骨臼の側方に張り出し、腸骨に付着する殿筋群の作用が強くなる。このため、歩行時に左右方向のバランスが取り易くなる。また、幅の広い骨盤は直立時に上体と内蔵を支えるために発達したと考えられている。アウストラロピテクスと現代人の骨盤における相違点の一部は、現代人に至る過程で産道が拡大したことで説明できる。現代人の骨盤における顕著な性差も産道の大きさに起因するところが多い。
直立二足歩行では体の重心が支持器の直上に近接する必要があるため、膝と足は体の正中線に近く位置する。このため、現代人とアウストラロピテクスの大腿骨は、幅の広い骨盤から下内側に向かい、長軸が斜めになっている。また、大腿骨下端の関節部は前後に長い楕円形であるため、膝を伸展した時に大腿骨と脛骨の接触面積が広くなり、膝関節は安定する。現代人の足では、かかとの骨(踵骨)が大きく、着地時の衝撃を吸収する内部構造になっている。足底面全体は縦方向のアーチ状に保たれ、蹴り出し時には、靭帯の働きによりアーチが強められる。親指は大きく、前方を向き、他の指と共に蹴り出し時には背屈する。アウストラロピテクスの足は側方の指がやや長いが、主だった構造では現代人と似ている。それに対してチンパンジーの足は把握器でもあるため、親指は可動性が高く、側方の指は長く、屈曲範囲が広い。また、踵骨は小さく、足の甲の骨(足根骨)はアーチが形成されないため、足を接地しながらかかとが持ち上がる。
縄文時代人と現代日本人の大腿骨と上腕骨の形の変異を示す。大腿骨ではピラスター(後面に見られる付け柱状の突起)の発達を、上腕骨では骨幹の太さと三角筋が付着する粗面の発達を例示する。展示されている骨はいずれも男性の右側であり、個々の小集団の中で上記の特徴が最も発達している骨と、最も発達の弱い骨を選別してある。著しい個体差とそれを上回る集団差が明確にみとめられる。大腿骨については縄文時代の2集団でピラスターが発達している。これは後期旧石器時代以降の狩猟採集民に共通する特徴である。上腕骨については縄文時代人の間でも集団差は大きく、現代日本人の状態に近い集団(三貫地貝塚)と、はるかに頑丈な傾向を示す集団(保美貝塚)とで大きく異なっている。この違いは生業活動の違いを反映していると考えられる。