第2部 展示解説 動物界

哺乳類の多様性と
標本から読み取ること

 

 

兎目 :

 よく発達した、伸び続ける門歯をもっという点で齧歯目と共通しているため、かつては齧歯目に入れら れていた。しかしウサギ目には門歯の裏側に小さな 「くさび状門歯」がある点で齧歯目と違うことから ( 図 80) 、 現在は独立した目として扱われている。また足の裏には毛が生え、鼻には割れ目があって開閉でき、総排出腔で、尿と便を排出するなどの特徴ももつ。肛門から出す未消化物を直接食べて再度消化する「糞食」をする。

 日本のウサギ科には、ノウサギとアマミノクロウサギがいる。東北日本の積雪地方のノウサギは冬に体毛が白くなり ( トウホクノウサギ L.b. angustidens) 、移行帯では冬でも褐色のままの個体と混在する。暖地にはキュウシュウノウサギ (L.b.brachurus) 、佐渡にサドノウサギ L b.lyoni などが生息する ( 図 8l,82) 。しかし現在では これらはひとくくりにノウサギとされることが多い。ノウサギはかつては里山地帯に多く、「うさぎ追いしかの山 J と歌にも歌われ、また戦中戦後は林業の被害を発生する害獣として嫌われたが、現在では少なくなっている。

 

 南西諸島に固有なアマミノクロウサギ Pentalgus furnessi ( 図 83) は体色が黒く、短い耳をもち、穴を掘ってその中で休んだり、子育てをするという特異なウサギである。長い爪は地面を掘るのに適している。本学は奄美大島に医科学研究所・奄美病害動物研究施設をもつ。イヌに食い殺されていた本種の遺体が住民によって研究所に届けられ、服部正策助教授によって保存され、標本とされた。この標本は骨の一部が骨折している。 本種は外見の違いを考えると頭骨そのものはノウサギ とよく似ているが、鼻骨が長い点、底面の翼状骨間簡が狭い点などではっきり区別される。本種は人為的に導入されたジャワマングースによって生息地が縮小しつつあり、その将来が懸念されている ( 石井 ,2003) 。

 ナキウサギ ( 例、アルタイナキウサギ Ochotona rufescens, 図 84) は小型で耳が短いため私たちがイメージするウサギとは違う印象を受ける。日本のキタナキウサギ O.hyper borea は極東大陸部の高山の岩場にすむ。 こういう生息地は植物が比較的豊富であり、地面を掘 らなくても巣に適した場所があり、危険があれば逃げ込む入口が無数にあるので都合がよい。短い耳や四肢はこのような場所をすばやく移動するのに適している。北海道のものはエゾナキウサギ O.h.esoensis とされる。

 

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