第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

二枚貝綱(Class Bivalvia)

 

翼形亜綱 (Subclass Pteriomorphia):

 殻は扇平で左右非対称の種が多い。外套膜は癒合せず、水管は形成されない。一部のグループは殻の微細構造として葉状構造をもつが、この構造は他の二枚貝類には例がない。交歯は多歯型 ( フネガイ目 ) 、等歯型 (イタヤガイ亜目の一部) 、または交歯を欠くグループも多い。靭帯は変化が多く、内靭帯、単純靭帯、重複靭帯、多靭帯、筒状靭帯のすべての型が出現する。閉殻筋は前後に2つあるもの(双筋)が基本であるが、しばしば前側の筋肉が失われ、単筋型になる。外套線は湾入しない。 セメント質あるいは足糸を分泌して、固い地物に固着 して生活するものが多い。

 初期の分子系統の研究では、翼形類の単系統性は支持されていなかったが、それは分析に用いた分類群が不足していたからで、最近の分析ではその単系統性は支持されている (Campbell, 2000; Steiner and Hammer, 2000; Giribet and Wheeler,2002) 。

 翼形亜綱は下記の 5つの目からなる。

 (1) イガイ目 (Order Mytiloida):

イガイ科 Mytilidae のみからなる。殻頂が前側に偏り、 3角形状の殻をもつものが多い(図 7A)。表面は厚い殻皮に覆われ、内側は真珠光沢が強い。交歯 は全くないか、弱いものが ある(貧歯型 dysodont) 。靭帯は殻頂よりも後側にあり (opisthodetic)、筒状 (parivincular)。閉殻筋は前後にあるが後ろの方が大きい(heteromyarian)。鰓は糸鰓型または弁鰓型である。貝殻はあられ石からなる真珠構造と方解石からなる繊維状構造からなる。生活様式は様々で、岩礁に足糸で付着する種、砂泥に埋没して生活する種、サンゴや泥岩に穿孔するもの、深海の沈木に付着するものがある。

 (2) フネガイ目 (Order Arcoida):

 貝殻の交歯は多歯型(taxodont)。靭帯は重複靭帯(duplivincular)(ただしシラスナガイ科とシラスナガイモドキ科は例外)、鰓は糸鰓型、閉殻筋は前後の大きさが等しい等筋型 (isom- yarian)である。貝殻は主に交差板構造からなる。

 フネガイ目は 2上科 6科に分類される。フネガイ上科 Arcoideaでは歯板は直線的。放射肋をもつものが多い。 浅く潜入するか、足糸で岩の隙聞などに穿孔して足糸で付着する(nestler) 。 フネガイ科 Arcidaeでは歯板は直線的で、左右の殻は等殻であるか僅かに左殻の方が大きい。英名は ark shell 。 ヌノメアカガイ科 Cucullaeidae (図7B) はフネガイ科の種に類似しているが、後閉殻筋が板のような支持板 (buttress) に付着する点で区別される。 Noetiidae もフネガイ科によく似ているが、靭帯が分岐せずに、縦に配列 する点で異なる。シラスナガイ上 科 Limopsoidea では、殻は円形に近く、殻頂が背側の中央部付近にあるか、わずかに後ろ寄りに位置する。 殻の内側にある歯板は厚く発達し、ゆるく湾曲する。 シラスナガイ科 Limop sidae(図 7C)とタマキガイ科 Glycymerididae は外見は類似するが、 靭帯の形態で区別される。シラスナガイモドキ科 Philobryidae( 図 7D) はすべて小型の種であり、多歯型で弾帯が内側にある。

 (3) ウグイスガイ目 (Order Pterioida):

 一般的に左右の殻の形と大きさが多少異なる(不等殻 inequivalve) 。 殻閉筋は 2つあり前後の大きさが異なる (heteromyarian) か、またはほぽ同じ (isornyarian) 。靭帯は単純靭帯または多靭帯。殻の微細構造は、単純稜柱構造と真珠構造で、交差板構造や葉状構造を欠く。鰓は糸鰓型 または弁鰓型である。足糸で岩礁 に付着する種が多い。真珠構造をもつため、殻の内側は真珠光沢に富み、一部の種は真珠の生産に利用される。右殻には足糸を出すための湾入 (byssal notch) が右殻にある。

 ウグイスガイ目は2上科 5科に分類されている。ウグイ スガイ上科 Pterioidea は殻が扇平な 種が多い。足糸を出すための湾入部をもつ。ウグイスガイ科 Pteriidaeでは殻頂の前後に耳状部 (前耳、後耳) が発達し、後腹側が斜めに伸びる種が多い( 佐々木 ,2002: 図 XIV) 。アコ ヤガイ、クロチョウガイのように真珠の母貝になる種は pearl oyster と呼ばれる。シュモクガイ科 Malleidae は背腹に長くなり、 T字型になる種もある ( 佐々木 ,2002: 図 235,236) 。英語では hammer oyster と呼ばれる。軟体部の内臓部が殻の大きさに対して著しく小さい。マ クガイ科 Isognomonidae は多靭帯型で多数の弾帯が垂直に並ぶ。 Pulvinitidae も多靭帯型の靭帯をもち 、現生種はニュージーランド周辺のみに分布する。ハボウエキガイ上科 Pinnidae はハボウキガイ科 Pinnidae 1科からなる。殻は三角形で(佐々木 ,2002: 図2-61) 、尖った方(殻頂 ) を海底中 につきさるようにして埋もれて生息する。殻には交歯がなく、左右の殻は靭帯だけで付着している。足から分泌した有機質の足糸を底質中の小石等に付着させて生息姿勢を安定させている。鰓は弁鰓型である。英名は pen shell 。

 (4) ミノガイ目 (Order Limoida):

 ミノガイ科 Limidae (図 7E) が含まれる。殻は背腹に長く、扇平で前耳が発達する。前側には足糸開口がある。交歯はなく、弾帯のみ 。微細構造は繊維状構造・稜柱構造と内側が交差 板構造である。ミノガイ類には自由生活を営み遊泳能力をもつ種と、岩礁に足糸でしっかりと付着する種がある。殻の表面には細かい鱗片状の彫刻がある。

( 5) カキ目 (Order Ostreoida):

 固着性の種が多く、岩礁にセメント質で固着するか、足糸で付着する。しかし、成長の過程で 2次的に足糸を失って自由生活を送るものもある。殻の微細構造は、外側の層が単純稜柱構造、内側は葉状構造である。閉殻筋は前後の大さきが異なる (anisomyarian) か、または単一 (monomyarian) で、前側の筋肉は退化的であるか全く失われる。靭帯は単純靭帯である。 2 亜目に分けられる。

 カキ亜日 (Suborder Ostreina) には 3上科が含まれる。 イタポガキ上科Ostreoidea のベッコウガキ科で Gryphaeidae とイタボガキ科 Ostereidae は固着性で、殻の形態は類似しているが、ベッコウガキ科では腸が心臓を貫通するのに対してイタボガキ科では貫通していない。ネズミノテ上科 Plicatuloidea のネズミノテ科 Plicatulidae は殻頂部で、礁に付着する。閉殻筋は 1個のみ。 イシガキ上科 Dimyoidea のイシガキ科 Dimyidae は右殻全体で岩礁に固着し、外見はカキ類のようである。しかし、前後相称の強い交歯と弾帯をもつ。ネズミノテ科と異なり、閉殻筋は 2個ある。

 イタヤガイ亜目 (Suborder Pectinina) は自由生活を送るか、または岩礁に固着する。 2上科 6科に分類される。イタヤガイ上科 Ptectinoidea のイタヤガイ科 Pectinidae は赤色系の色彩をもつ色鮮やかな種が多い ( カラー図 1A, 1B) 。ホタテガイやツキヒガイのように遊泳能力をもつものがある。その場合、常に右殻を下にして生活しているが、海底に接する側の殻の方が色が淡い。ワタゾコツキヒ科 Propeamussidae は深海性の種が多く、殻は薄く半透明。 コモチハリナデシコ Clamydella incubata ( 図 7F) は例外的に浅海の海底洞窟に多産することが知られている。 ウミギク科 Spondylidae は固着性で、右殻で岩礁に付着する。殻表には様々な形態の棘をもっており ( 佐々木 , 2002: 図 XV) 、英名では thorny oyster (とげだらけのカキ ) と呼ばれる。ナミマガシワ上科 Anomioidea のナミマ ガシワ科 AIlorniidae は岩礁に足糸で付着し、右殻には足糸を出すための窓のような構造がある。一方、マドガイ科 Placurlidae は、干潟に横たわって生息し、足糸をも たないため、関口部はない ( 佐々木 ,2002: 図 2-39) 。

 

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