往復書簡
マーク・ダイオン & 西野嘉章  

 

2002年10月15日

西野先生 いましがた初めてお手紙を受取りました。東京大学の隠れた驚異を求めての宝探しに二十名以上もの学生がわたしたちの目や耳となって協力してくれるとは、すばらしいニュースです。わたしとしては彼らがうらやましく、もし時聞が許すならば貴方の大学のすみずみまで探検する機会を持ちたいと願わずにはいられません。学生たちからは、真面目で勤勉、知的で好奇心に富んでいるという印象を受けました。ことに飯田さんとわたしといっしょに魚河岸と水族館の探検に来た学生には感銘を受けました。貴方とわたしが共有する事物に対する情熱は一種の病気で、極めて伝染性が高い可能性がある、と学生たちには注意を促したほうがよかもしれません。発掘された「オブ ジェ・卜ゥルヴェ」を拝見するのを楽しみにしています。 マーク・ダイオン


2002年10月30日、東京

マークへ、

絵葉書三通拝受しました。どれも繊細で、美しいのですが、なかで、とくにカタツムリの絵が気になります。これを見ていて、小さい時分に父親の話してくれた話を思い出したからです。 ある小さな島があり、そこには左巻きのカタツムリしか棲んでいないというのです。貝学の証明するところによると、地上の貝の大半は右巻き貝です。だから、左巻き貝というのは珍しい品種なのだそうで、自然界ではめったにお目にかかれ代物だと言います。なぜそうなのかわからない。こんな単純な事実でさえ、今日のサイエンティストはいまだ説明できずにいるのだそうです。自然界というところは、いわく言い難い神秘に満ちています。

絵葉書日記のなかで、ディーニュの博物館の化石コレクションについて触れていましたね。エクス・アン・プ口ヴァンスに住んでいたころ、よく友達といっしょにオー卜・プ口ヴァンスの森へ行きました。ピクニックをしがてら、化石集めをしたのです。岩の裂け目や小石のなかから化石を見つけたときの、あの興奮たるやなかった。なにせ、太古のむかし地下世界に凝縮された時間、あの失われた時間がそのままスッーとたち戻ってくるのですから。

こちら東京では、展覧会用のポスター、フライヤーのデザイン・レイアウトが完了しています。図録の方は、ぼくらのヴィジュアルにびっくりしますよ。オブジェ風の体裁で、前代未聞のもの。きっと気に入るだろうと思います。できれば、サイン入豪華版百部(一番から百番までの番記入り ) と普及版千部の二種類を出したいと考えています。

11月6日夕方の講演会の案内も、すでに手配済みです。聴衆は博物館の仲間、学生、一般、さらにヴォランティア・グループを加え、総勢 100人くらいだろうと思います。 展示物を選ぶための、材料も揃っています。というわけで、展覧会がいつでもスター卜できるよう、準備万端の状態にあります。

11月4日の東京到着、楽しみにしています。

それでは、 西野嘉章

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