4.人と貝のかかわり


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移入種

 日本本土への最古の人為的な移入種は、マルタニシCipamgopaludina chinensis laetaです。稲作とともに中国から移入されたと言われています。江戸時代には東南アジア原産のオナジマイマイBradybaenaがサツマイモと一緒にもたらされました。南西諸島に生息するソメワケダワラGunella bicolorも同様です。明治時代以降は、人の往来がさかんになり、それとともに移入種が増えました。明治〜戦前にかけて移入された種は、ヨーロッパ原産のサカマキガイPhysa acuta、コウラナメクジLimax flavus、ムラサキイガイMytilus galloprovincialis、北アメリカ原産のコハクガイZnitoides arboreus、アフリカ原産のアフリカマイマイachtina fulica、東南アジア原産のトクサオカチョウジガイParopeas achatinaceumなどです。

 戦後の例では、1968年に発見されたアメリカ西岸原産のシマメノウフネガイCrepidula(図4-21)が有名です。本種は現在では日本の浅海の最もありふれた貝の一種になっています。東南アジア原産のアシヒダナメクジEleutherocaulis alte、ヨーロッパ原産のチャコウラナメクジLehmannia valentiana rosea、北アメリカ原産のヤマヒタチオビEuglandina roseaも戦後の移入種です。


 
 1980年代以降はさらに種数が増大し、移入種の黄金時代を迎えています。1980年代初頭にはオーストラリア原産のコウロエンカワヒバリガイXenostrobus securisとカリブ海南部原産のイガイダマシMytilopsis salleiが広まりました。スクミリンゴガイPomacea canaliculata(図4-9)はアルゼンチンからもたらされました。琵琶湖では淡水真珠養殖のための母貝が減少したため、中国原産のヒレイケチョウガイHyriopsis cumingii(図4-22)が導入されました。淡水産では、中国原産のカワヒバリガイLimnoperna fortunei、東アジア原産のカネツケシジミCorbicula fluminea form insularisがもたらされました。海の貝類ではヨーロッパ原産と思われるウスカラシオツガイPtericola sp.cf.lithophagaや東南アジア原産のミドリイガイPerna viridisが東京湾で見られるようになりました。有明海ではシジミ類の輸入にともなって侵入したと考えられる中国原産のヒラタヌマコダキPotamocorbula laevisが大量に発生するようになりました。地中海沿岸原産の陸産貝類のオオクビキレガイRumina decorata(図4-23)も西日本で発見されています。


 

 
 一方、日本から海外へ進出を遂げた貝類も少数ながら見られます。アサリRuditapes philippinarumは、日本人の移住にともなってハワイやカリフォルニアにも移植され、1980年代には地中海にも導入されました。アカニシRapana venosaは1960年代より黒毎で発見され、現在は黒海、アドリア海、地中海東部で普通種として繁殖しています。最近では国内のアカニシは減少していると言われており、東京の築地市場にトルコ産のアカニシが逆輸入されたこともあります(図4-24)。


 
 移入種は、意図的に移入される場合と、物流によって偶然に運ばれる場合があります。前者の代表例はスクミリンゴガイやアフリカマイマイですが、これらの種による農業被害は深刻な問題です。安易な外来生物の移入は予想外の悪影響を及ぼす可能性があることを、移入種の歴史は物語っています。




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