デジタルミュージアムを支える技術
強化現実技術

PDMA

− 坂村 健 −


PDMA (Personalized Digital Museum Assistant) は、コンピュータ技術を利用して来館者に博物館をより楽しく深い知識と感動を得られるようにする「展示」を強化するツールである。PDMAは携帯端末であるPDA (Personal Digital Assistant) と、個人個人が自分に合った形で (Personalized) デジタルミュージアム (Digital Museum) を楽しむためのツールという意味を込めて作った造語である。PDMAの実現にあたっては色々な形態が考えられ、東京大学総合研究博物館では幾つもの形態のPDAMを研究開発し試行実験を繰り返してきた。原理的には展示物に電子タグを取りつけ、PDMAが電子タグから来るデータを読み取ることにより、利用者がどの展示物についてどのようなことを知りたいのかを検出する。PDMAはこれに応じて、その展示物や関連情報を表示したり音声で説明したりする。

PDMAの特長はパーソナラライズの部分にある。来館者の求めるサービスをPDMAを貸し出す時に設定することにより、その人向けの解説が行われる。たとえば使用する言語、文字の大きさ、専門知識の度合い、子供向け等々。従来のように展示物の側にパネルで掲示する方法ではスペースや見やすさからきめ細かい解説を行うことは不可能であった。また、解説のパネルを見るため人が滞留すると、せっかくの解説を見ないまま通過する人が増え、博物館を訪れる人々に対してのサービスビリティの低下につながる。PDMAは個人個人が携帯することにより、自分の端末で自分向けの解説を自分のペースで利用することができる。つまり、来館者一人一人に親切なガイドが付いて、自分に合った説明をしてくれるようなものである。最近では比較的高速な無線LANが実用化され高性能な携帯端末が利用できるようになってきていため、博物館のサーバーにあるデータベースとリンクをとることにより、より詳しい情報や豊富な内容を提供することができる。博物館の間で連携をとれば、インターネット経由で他の博物館に収蔵されている物やそのデータとの比較を行うことも可能となり、一般の来館者のみならず専門家の研究目的でも利用価値は高い。

さらにPDMAは電子タグの情報を読み取ってそれに対応した説明をするだけでなく、展示している物側がPDMAと交信することにより、どのような人が見に来ているかの情報を得ることもでき、それを使って展示内容を動的に変えるという手法も実現できる。同様にして、どのような人がどの展示を見に来たか等の情報を収集することにより、利用者にさらに高い感動と興味を与える展示企画をつくるための資料とすることができる。