東京日々新聞 第八百八十五号
爺さんの浮気をめぐる老婆同士のけんか。「昔々」から「いちがさかえた」まで昔話のきまり文句やおなじみの話題・登場人物を、織り交ぜつつすこしひねった戯作調である。これもまた読み手の耳にひびく面白さを意識した文体である。
東京日々新聞 第八百八十五号
きのうハけふの昔々、洗濯ならぬ仙台にちよつきやられた雀の子、飛でもない事/しでかした。爺イと婆アとあつたとサ。其また近所にひとり住む狸婆アこつそりと、/此爺さんへ狸汁、一ぱゐ喰せる居膳も、竟にハ耻を柿のたねと、知らぬ皺手を握り飯に、/損得なしを舌切雀、/夫からチヨツチヨツと御宿を/たづね、枯木に花を咲せたる。/灰ならねども本妻の、けんどん婆アの/目には入り、ならす歯がみのかちかち山、/背中の柴ほど胸をバ焦し、蕃椒味噌の辛らき/目に、あはさば夫でよい黍団子と、日本一の趣向を/考へお供につれる現在の娘も心ハ鬼が島、納戸の/岩屋へ忍び入り、起んとするをどっさりと、重い/葛篭が臼ほどな、尻をのせかけ動かせず、其間に爺イは何処へやら、かくれかさねた/夜着はねのけ、隠れ蓑の毛引むしり、児槌打出す宝物手に入りたりと笑栗の、/毬もの作りの木太刀をバ、洞の奥まで押/込でどうどう敵を仕とめたる、夫にて/いちがさかえたとハ、荳馬鹿馬鹿/しき噺ならずや。
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