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[新聞錦絵の情報社会]


伝統の継続—心中と奇談、役者もの

新聞錦絵は一方では、旧来の一枚刷りの題材を受け継いでいる。かわら版によくみられる心中事件や奇談の類、あるいは錦絵の重要な分野であった役者絵の要素を新聞錦絵は取り込んでいるのである。

勧善懲悪錦画新聞 第二十号
図143

勧善懲悪錦絵新聞 第二十号

(京都の機織り職人と人妻が大阪で心中)
西陣で織り子として働く若者と子持ちの女性との心中事件。心中は当時入水か刃物による方法が一般的であった。芝居の場面のようにしっとりとした風情だが、文章は辛辣に無分別だと責めて終わっている。

勧善懲悪錦画新聞 第二十号

京都府下上京第十五区中立売/上福寺上ル佐々木清次良ハ小倉地/織を職業となし下職人も多き其/中に上京第七区笹屋町通り飯/森宗吉といへるハ當二一年三ヶ月/同第十五区中立売通り中嶋/徳次良の母おしづといへるものハ/當四十二年十一ヶ月なり/此両人三四年前より/佐々木/方/の/織子となり/稼ぎしうち/フト馴染て深く/なりしが宗吉ハ兼て病身ものにて十/分に稼ぎもあらざるゆへおしづも常々/辛労なしいろいろ思いをつくし居りしが/フト六月三日両人もろとも大阪へ下り/所々見物なしついに金子も遣ひはたし/京へ帰るも帰られず死ぬより外にし/かたなしと愚なるかな両人ハ覚悟を極/て川口の運上所の門ぎハに書置を/認め天神橋より投身せしを巡吏/に見付られ幸ひに命助り京都/府へ送られしとぞいうなる者なるにや/あまりの無分別ならずや

時習舎編輯

新聞図会 第二十号

新聞図会 第二十号

(心中の男女を巡査が救助)
の『勧善懲悪錦絵新聞』第二十号と同じ事件を扱ったもの。
青ざめた男女を介抱して蘇生させている場面。人魂らしきものが中空に漂っているのは、錦絵新聞ならではの表現。

図144

東京日々新聞 九百十三号

(遊女と腹を探り合う狂言心中)
心中はもともと、誠の愛情を男に証立てる指切り髪切りといった娼妓の手練手管の究極的な形態として始まったのだが、この話では男が芝居用の糊紅を血と見せかけて娼妓に一杯食わせたのである。

東京日々新聞 第九百十三号

疑ふ心ハ情に深き。中仙道の深谷といふ駅の娼妓に馴染て通ひ。/諛実家へも談を整。やがて吾家の妻沼村へ引娶べしと約束の。他にも/情郎のありときき。客ハ勃然となつて譴責れバ。妓ハ手管の/妙術もて。死で誠を明さんと云ふ奥の手を試て/見ばやと。倶に死んと華美に粧ひ出て/或る蘭若の墓所に到て合掌し男ハ死出/の案内をせんと。短刀腹に突立れバ。周章と/愕き逃出す妓を笑て呼止しハ。之れ/糊紅の細工にて互に却色た伝奇/ながら若し過つて躰にたたバ貴重/の命を断に至る。疑ひ深きも/野蛮にあらずや。此話を/故人の句にしくかかく。

     白露や無分別
       なる置どこ路転々堂戯記

東京日々新聞 第九百十三号
図145

東京日々新聞 第四百四十五号

東京日々新聞 第四百四十五号

(三目の妖僧に化けた古狸を退治)
化け物も勇気ある者が捕らえてみれば古狸だったという話。人が恐れる奇怪なでき事も狸が化かしたせいだと種明かししているのは、現代から見ると科学的・合理的な根拠とは思われないが、いたずらな迷妄の否定ではある。

東京日々新聞 第四百四十五号

東京元柳原町に住居する/梅村豊太郎といへる者。/明治六年/八月/四日午後二時とも/おぼしき頃。地震に目/覚て熟眠れぬ折しも傍に/臥たりし。小児の物に魘れけん/FL1入る声に驚きて視る枕辺/に怪しき哉。卓然と立たる/三眼の妖僧。見る見る頭は/天井を突抜くばかりに伸/揚るを。頗る胆ある豊太郎。/憤然と身を踊らして/変化の裾を引掴み力を/極めて打倒すに。是なん歳経し/老狸なり/しと

転々堂鈍々誌

図146


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