生命の科学


生命の科学展開催によせて

近年、生命に関する学問、生命科学は、現代の自然科学の中でも、最も活発に研究活動が行われ日進月歩で進展している分野の一つです。本「生命の科学展」は、東京大学総合研究博物館が東京大学医科学研究所と共同で、英国大使館の協力を受けて開催するもので、こうした生命科学の基礎である生物科学やその応用分野である医科学の歴史と最先端を紹介しております。

なお本展示期間は、夏休みの時期と重なるため、中学生、高校生の皆さんに生命について楽しんで学んでもらえるようにと、様々な工夫を凝らしております。是非こうした方々にもご来館いただき、展示をご覧になっていただきたいと思います。

また今回の展示は、英国大使館と共同で行われたものです。海外の組織との国際協力の下で展示を行うことは、当館にとって初めての試みです。このような試みが成功したことは、当館にとっても大変喜ばしいことであり、今後も、このような国際協力の活動をよりいっそう強めていきたいと考えております。

最後に、この展示開催にあたりご尽力いただいた館内外の多くの方々に深く感謝申し上げたいと思います。

林 良博
東京大学総合研究博物館長
東京大学大学院農学生命科学研究科教授


20世紀半ばに成立した分子生物学と、その副産物である遺伝子工学(バイオテクノロジー)は生命現象の研究法の革命的変化と、医学、薬学、農学分野の産業革命をもたらしました。今まさに、生命原理に関する基礎的発見が、バイオテクノロジーの技術革命を引き起こし、それがまた生物学の次の基礎的発見をもたらすという、生命科学技術の連続的革命が進行しています。バイオテクノロジーは医薬品の開拓、細胞、遺伝子治療治療等の新技術開発を通して医学医療を大きく変えつつあります。分子生物学は解剖学、生理学、生化学、薬理学、免疫学、細菌学、分類学、など伝統的な学問領域の垣根を取り払い、生命科学、医学は、DNA・遺伝情報という共通言語を基礎に研究されるようになりました。この流れはいっそう加速され、21世紀には生物学・化学の融合に加え、物理学、人文科学との融合が予測されます。

このような背景の中で、このたび「生命の科学展」が、東京大学総合研究博物館、医科学研究所(医科研)、英国大使館の協力により開催されることは、時宜にかなった企画であります。

現在、医科研は、多数の基礎研究部門と、ヒトゲノム解析センター、ヒト疾患モデル研究センター、実験動物研究施設、遺伝子解析施設などの研究施設から構成されています。附属病院も先端的治療法の開発をめざし、骨髄移植のための無菌病棟やエイズ診療部の設置など時代の要請に伴って拡充されてきました。こうして、医科研はゲノム医学から細胞・遺伝子治療など高度・先端的治療の開発まで、基礎生命科学、癌、感染症の研究を結ぶ日本最大の研究所となっています。今回の展示では、伝研、医科研の歴史を通じて、21世紀の医学・医療を考える材料の一端を提供したいと願っております。

本企画に御尽力下さったヒトゲノム解析センターの宮野教授や高橋事務部長をはじめ医科研の教官・事務官の方々に感謝致します。

また本企画とともに7月2日には、生命の科学シンポジウムが安田講堂で開催されます。大学関係の方々はもとより、小、中、高校生や一般の方々の多数の御来場をお待ちしております。

新井賢一
東京大学医科学研究所所長


日本では英国というと歴史・伝統・古き良きライフスタイルで知られており、私どももこれを誇りとしています。しかし、英国にはそうした伝統的な国のイメージ以上のものが遥かに数多くあります。今日の英国と英国人には、創造性と革新性、そして大いなるダイナミズムというものがあり、伝統的な強さと価値観を保ちながらも、常に新しいものに挑戦しようとする意欲に満ちあふれています。 英国祭UK98は、古典的な美術から現代文化とライフスタイル、そして科学技術から日英の草の根交流にいたるまで、今日の英国が誇る多様性をお見せする格好の機会となるものです。英国祭UK98は皆様が「知らなかった英国」を紹介します。

きっとお楽しみいただけるものと確信しています。

これまでの歴史の中で、人類は人間の心と体の働きを解き明かし、命の仕組みを理解しようと努力を重ねてきました。また、何世紀にもわたる医学的な発見が我々の好奇心に刺激を与え続けました。特に過去20年間、DNAが解明されたことで我々の理解は急速な進歩を遂げていますが、医療や治療法において未だ解明できていない部分が数多く残っているのが現状です。日英が緊密な共同研究を実施しているのは、こうした分野であり、両国がこのような共同研究を開始しましたのは、エドワード・ジェナーが天然痘のワクチンを初めて開発した200年以上も前にさかのぼります。日英の医学研究者は、神経科学やヒューマン・ゲノムなど広範な医学分野の最前線で活発な交流を行っています。

生命の科学展ならびに生命の科学シンポジウムは、科学技術分野における緊密な日英関係を反映するもので、東京大学総合研究博物館と、東京大学医科学研究所の皆様方のビジョンと熱意により実現する運びとなりました。このような素晴らしい展覧会が東京で開催されますことを関係者の皆様に心よりお祝い申し上げます。また、創造性あふれるこの展覧会の発案者であるウェルカム・トラスト、ブリティッシュ・カウンシル、そして、この事業を協力して支援してくださいました企業の皆様から頂戴した貴重なご協力に対し深く感謝いたします。

生命の科学展では、若者にも年配の皆様にも人体の働きについて関心を持つと同時に学習していただけるような魅力的な発見が数多く紹介されます。必ず皆さまにお楽しみいただけるものと思います。

サー・デーヴィット・ライト KCMG LVO
駐日英国大使
Sir David Wright
Her Britannic Majesty's Ambassador to Japan


「生命の科学展」、それは訪れる人々に病気に侵された体と健康な体を通して人体の仕組みを学んでいただき、科学者達が生命の神秘を見いだす創造的な努力の中で体験する興奮を共有していただくことを目的としています。

「生命の科学展」は1993年1月、ロンドンで開催されてから今まで、たくさんの来館者を魅了してまいりました。世界最大の医科学研究の慈善団体、ウェルカム・トラストでは、科学の成果だけではなく——その過程を一般の人々に知ってもらう事を目的として「生命の科学展」を開催したのです。現代社会はよりいっそう科学の成果に依存するようになっていますが、いもかかわらずその成果を疑い、敵視さえいだきはじめているようです。「生命の科学展」は研究の本当の姿を見せ、人々が医学研究の過程を理解する手助けをすることによって、科学を姿を描こうと試みています。私たちの文化の中心的部分として——つまり、苦痛の軽減や生活の質の向上という前向きな目標をかかげた、発見への創造的で興奮に満ちた道程として。

生命の科学展の中で最も人気のあるパートは、今回の展示の第二部のもととなったインタラクティブなセクション、「人体を知る」です。老若男女問わず人気のこのセクションは、来館者が自分自身のことを理解する手がかりとなり、医学博士と同じように自身の体について考える手助けをします。これが私共がこのセクションを東京に持っていきたかった理由です。そして、私共は東京大学がこの展示会の主催に賛同してくださったことをとても嬉しくまた誇りに思っております。Science for Lifeのオリジナル・デザインを行った MET Studioには、この「Science for Life, Tokyo」でも責任を持って取り組んで頂きました。私の目から見て、ロンドンにあるオリジナルよりも良いものを作り上げて下さったのではないかと思います。

東京の来館者の皆様がロンドンと同じように「生命の科学展」第二部を楽しんでくださるものと確信しております。そしてこの展示会を実現して下さった東京大学総合研究博物館に厚く御礼申し上げます。

ローレンス・スメイジ
ウェルカム・トラスト
Laurence Smaje
Director, Medicine, Science and History
The Wellcome Trust.


前のページへ 目次へ