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[第一部 デジタルテクノロジー]

アウトライン画像処理方式による版画


アウトライン電脳刷浮世絵
アウトライン電脳刷浮世絵
製作年:1996年
製作者:株式会社リコー
元絵:葛飾北斎 画、冨嶽三十六景 凱風快晴 (模写複製版)

ビットマップ画像とアウトライン画像

画像の処理方式にはビットマップ方式(ラスター方式)とアウトライン方式(ベクター方式)がある。ビットマップ方式では画像を画素単位に色分解し、RGB=Red/Green/Blue(またはCMYK=Cyan/Magenta/Yellow/blacK)の各基本カラーの階調データを処理する。

アウトライン方式では画像の中で類似した色特性を持つ領域単位にそのアウトライン座標データと色データを処理する。

ビットマップ方式は応用範囲が広い反面、画像精度の点で問題がある。つまり、記憶された画像解像度が出力装置の解像度と同じ場合は問題ないが、異なる場合は画素補完や間引きが行われるため正確性が損なわれるし、低解像度で入力された画像を高解像度で出力すると、画像にあるラインのギザギザが目立つ。一方、アウトライン方式の場合は出力装置に合わせて画像を生成するため、各種解像度の装置に対しても正確に、また拡大したラインもスムースなラインとして画像化される。しかし写真画像はアウトライン化出来る領域が細かすぎる場合が多くこの方式に不向きであり、版画的画像の処理に適している。

コンピュータによる版画制作

版画を制作する場合、通常表現したい色別に木版や銅版や石版等の製版を行い、色刷りを行う。製版では画像化したい領域にのみ彫刻や化学処理を施し、その部分にだけインクや絵の具が付着するようにするが、この領域のアウトライン情報をコンピュータに入力すれば、版画画像の生成をコンピュータ上で行うことが出来るわけである。

版画は紀元前から現在までの大半の画家が手がけている手法であり、一般の絵画より相対的に低価格であるため、美術市場の大衆化を可能にした。

等の今までの版画手法のバリエーションにコンピュータ処理を加わえることが出来るようになりつつある。

版画のためのアウトライン画像処理

アウトライン情報はコンピュータ上で変形や合成、さらには色刷りに対して各種CGテクニックも駆使出来るので、新しい感覚の版画を制作出来る。

1つのアウトラインは幾つかに分割され、その直線方程式や曲線方程式の変数がコンピュータデータとして記憶される。当然、複雑なアウトラインは直線方程式だけでは正確に表現出来ない。さらに曲線にも、円弧やスプライン曲線等の各種表現方法があるが、コンピュータ処理に向いているベジェ曲線が使われるケースが多くなってきた。つまりアウトライン画像は数多くの直線やベジェ曲線等の座標データを中心に、色情報等を加えてファイルされている。このアウトラインを構成する座標データは縮小拡大(しかも縦横比自由)や回転(特殊なスパイラル状の回転等も含め)などの幾何学処理が容易であり、画像の一部を切り出し部品化して、他の部品と組み合わせた新しい画像を簡単に制作出来る。組み合わせに際して、一方の部品とのバランスが悪ければ縮小拡大し、さらに上下関係も簡単に変えてみるなど、多様な編集が可能になる。次にアウトラインの領域単位にグラデーション・ペインティングを行ったり、あらかじめ用意された様々なパターンをマッピングさせたりして色刷りが行われる。色刷りの処理を行う時に、ランダムに掠れや滲み模様を発生させて、より自然なタッチを出すことも可能である。

このようなアウトライン画像処理機能を生かして、新しい作品作りを行うだけでなく、従来の手法で制作された版画作品の各版別のアウトライン情報をコンピュータに入力し、新しい感覚の作品にリニューアル出来る可能性も出てきた。

アウトライン絵画データベースの可能性

以上の様な特長を持つアウトライン方式により、江戸時代の浮世絵から現代までの優れた版画作品(版画タッチの絵画を含む)の画像をデータベース化すれば、新しい絵画鑑賞方法を提供出来る。高解像度出力のためには、アウトライン方式はビットマップ方式に比ベ、ファイル容量も圧倒的に少なくできるので(A3・400dpi・24bitsカラー画像はビットマップ方式では約100Mバイト、一方アウトライン方式ではたとえば浮世絵のかなり複雑な作品でも1Mバイト前後である)、インターネット等により高品質な絵画画像の配布が容易になる。さらに、アウトライン方式はその作品の鑑賞だけではなく、絵画の一部の編集や鑑賞者の好みにあわせて色刷りを変えてみることも出来るわけであるので、ワールドワイドの参加型絵画鑑賞という新しい絵画鑑賞スタイルへの展開の可能性も秘めているわけである。

(飯田 勝彦)

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