[The University Museum]

動物部門


当部門には東京大学理学部 (1877〜1886) 、 帝国大学理科大学 (1886〜1897) 、 東京帝国大学理科大学 (1897〜1919) 、 東京帝国大学理学部 (1919〜1947) および東京大学理学部 (1947〜) において、 動物の主として分類学的研究に使用された標本が所蔵されている。 標本の中では魚類が大きな比重を占めており、総数は約15万点に及ぶ。 日本の魚類学の基礎を築いた田中茂穂博士 (1878〜1974) の明治後半・大正・昭和初期の蒐集を中心に、 冨山一郎 (1906〜1981) 、 阿部宗明 (1911〜1996) 、富永義昭 (1936〜1994) ら諸博士の調査・研究標本などを加えたものである。 さらに、国内外の博物館・大学からの寄贈標本もある。 これらの標本の中には300種以上の模式標本が含まれている。 模式標本以外でも、 特に中国大陸の淡水魚などは今ではほとんど入手できない貴重なものである。 これら所蔵標本の分類学上の価値についてはいうまでもない。

[クモコバンの画像]
クモコバン Remora nubibera Tanaka, 1915
の完模式標本の側面および背面のレントゲン写真 (全長147mm)

所蔵標本は、分類学だけでなく、 生物の多様性や環境保全の問題などを研究する上でも極めて貴重である。 たとえば、日本産の淡水魚類標本には昭和初期までに採集されたものが 多数含まれており、環境破壊が今日ほど進んでいなかった時代の 形態や生態の多様性の状態や自然分布について、貴重な情報を提供してくれる。 過去の様々な情報が保存されているのである。

[魚類の模式標本の一部の画像]
魚類の模式標本の一部

クロダハゼ Ctenogobius kurodai Tanaka, 1908
ヤツハゼ Cryptocentrus yatsui Tomiyama, 1936
ナメライワシLeptoderma Lubricum Abe et al., 1965
コンニャクハダカゲンゲ Melanostigma orientale Tominage, 1971

当部門は、箕作佳吉博士 (1858〜1909) や田中博士らが蒐集した 多くの魚類学関係の図書と冨山、富永両博士の全ての蔵書も保管している。 単行本約1200冊、別刷約8000点である。 この中には、

など魚類分類学上の貴重な文献が多数含まれている。 田中博士が “A catalogue of the fishes of Japan” by Jordan, Tanaka and Snyder (1913) を執筆した際にスタンフォード大学に持参した自筆原稿など、 日本の魚類学史上貴重な資料も保存されている。 これら全ての文献情報は富永博士とその協力者によりデータベース化され、 全国の研究者に利用されている。

[貴重図書の画像]
貴重図書

田中茂穂、 冨山一郎、 阿部宗明、富永義昭ら諸博士の魚類目録 (標本台帳)の一部。
“Histoire naturelle des poissons” by Cuvier and Valenciennes (1828-1849) の一部

魚類以外にも無脊椎動物や両生類、ハ虫類など多数の標本が保管されている。 主として東京帝国大学理科大学紀要に発表された分類学の論文に 使用されたもので、多数の模式標本が含まれている。 生物学科第一回卒業生の飯島魁博士 (1861〜192l) の海綿動物約350点をはじめ、 佐々木望博士の頭足類などを含む軟体動物約3000点の他、昆虫類約1000点、 その他の無脊椎動物約3000点、両生類・ハ虫類約1万点などである。 しかし魚類標本に比べ、整理の状態は良くない。 現在、国内外の研究者の協力を得て、標本の整理・管理を行っている。

これらの膨大な標本、図書、資料などは模式標本室を含め いくつかの資料・標本庫に保管されているが、いずれも飽和状態である。 模式標本はいうまでもないが、その他にも貴重な標本が多く、 また多くの貴重な図書や資料が所蔵されているので、 国内外の研究者の照会や依頼に対応するのに追われている。

部門の現状は、研究分担者や客員研究員として20年以上にわたって 動物標本のキュレーションに携わった富永博士の次のことばに尽くされる。

“この様な貴重な標本を、いかに賢く堅実に守り継ぐかが、 最大の課題である”
(東京大学総合研究資料館ニュース、10号、1987年)

(坂本 一男)


東京大学総合研究博物館所蔵 魚類模式標本
−ハゼ類−

動物部門

動物部門は、日本の魚類学の基礎を築いた 田中茂穂博士 (1878〜1974)の蒐集を中心に、 冨山一郎 (1906〜1981) 、 阿部宗明 (1911〜1996) 、富永義昭 (1936〜1994)ら諸博士により 蒐集された約150,000点の魚類標本を所蔵している。 この中には300種類以上の模式標本が含まれている。

模式標本 (type) 、なかでも学名を担う模式標本 (name-bearing type) は 「種」の原典として命名法上極めて重要なものである。このため、 国際動物命名規則 (1985) では博物館など研究機関に対して これら学名を担う模式標本の 保存・管理・情報公開・研究促進体制の整備を求めている (勧告72G) 。

本展示は、 部門所蔵のハゼ類の模式標本 に関する情報を公開したものである。

[冨山一郎博士の画像]
冨山一郎博士

冨山一郎博士 (1906〜1981) −日本のハゼ学の創始者−

(坂本 一男)


東京大学におけるハゼ類の分類学的研究小史

ハゼ類は硬骨魚類のなかで最も多様化した一群で、 現在世界中で約2100種が知られている。 日本およびその周辺海域には約400種が分布する。

日本産魚類を精力的に研究して日本の魚類学の基礎を築いた 田中茂穂(明治37年理科大学卒)は、 黒田公の庭園から採集されたハゼを1908年に新種 クロダハゼ Ctenogobius kurodaiとして発表した。 これが日本人による初めてのハゼの新種記載である。 日本産魚類の分類学的研究の中で、田中は170の新種を記載をしているが、 そのうち13種がハゼ類であった。

1930年頃までの日本のハゼ類の分類に関する研究としては、

などがあり、約80種が日本から報告されていた。このような状況のもと、 田中の弟子である冨山一郎 (昭和5年理学部卒) は、 1931年から博士論文のテーマとして 日本産ハゼ類の分類学的研究に取り組んだ。 冨山は、彼が発見した新種も含め当時の日本産の全ハゼ類約100種について 分類学的再検討を行い、その成果を1936年 ”Gobiidae of Japan” (日本のハゼ科魚類) として出版した。 日本のハゼ類の全貌が、ここに初めて明らかになったのである。 長年にわたる研究を通して、冨山は13種のハゼ類の新種を発表している。 その後、日本におけるハゼ類の研究は、 高木和徳(元東京水産大学)・道津善衛(元長崎大学)や 冨山の指導を受けた多くの研究者に引き継がれ、多数の種が追加された。 現在日本で分類学的研究の最も盛んな魚類がハゼ類であることを考えると、 冨山の論文は日本の「ハゼ学」のまさに出発点であったといえる。

動物部門には田中・冨山の記載した種を中心に約30種の ハゼ類の模式標本が所蔵されている。

(坂本 一男)


東京大学総合研究博物館所蔵
ハゼ類模式標本


東京大学総合研究博物館所蔵
ハゼ類模式標本リスト

List of type specimens of gobioid fishes deposited in Department of Zoology
  **1. Eleotris fortis Tanaka, 1912  "Okame-haze"
    2. Ophiocara gracilis Tanaka, 1909  "Tanago-modoki"
    3. Apocryptodon punctatus Tomiyama, 1934  ""
   *4. Chaenogobius cylindricus Tomiyama, 1936  "Kiseru-haze"
   *5. Chaenogobius isaza Tanaka, 1916  "Isaza"
    6. Chloea senbae Tanaka, 1916  "Senba-haze"
   *7. Cryptocentrus oni Tomiyama, 1936  "Oni-haze"
   *8. Cryptocentrus yatsui Tomiyama, 1936  "Yatsu-haze"
    9. Ctenogobius katonis Tanaka, 1908  "Kinkan"
  *10. Ctenogobius kurodai Tanaka, 1908  ""
   11. Eleotriodes puellaris Tomiyama in Tomiyama and Abe, 1956  "Otome haze"
 **12. Eviota grammistes Tomiyama, 1936  "Ichimonji-haze"
 **13. Eviota macrophthalmus Tomiyama, 1936  "Oome-haze"
 **14. Gobiodon gnathus Tomiyama, 1934
  *15. Gobius ornatus masago Tomiyama, 1936  "Masago-haze"
  *16. Lubricogobius exiguus Tanaka, 1915  "Midin-beni-haze" 
   17. Luciogobius albus Regan, 1940  ""
   18. Luciogobius pallidus Regan, 1940  ""
  *19. Oxyurichthys saru Tomiyama, 1936  "Saru-haze" 
  *20. Parioglossus dotui Tomiyama in Tomiyama and Abe, 1958  "Satsuki haze"
   21. Rhinogobius barbatus Tomiyama, 1934  ""
   22. Rhinogobius fluviatilis Tanaka, 1925  "Yoshinobori"
 **23. Rhinogobius hoshinonis Tanaka, 1917  "Hoshino-haze"
  *24. Sicydium japonicum Tanaka, 1909  ""
***25. Tridentiger kuroiwae Jordan et Tanaka, 1927  ""
   26. Tridentiger nudicervicus Tomiyama, 1934  ""
 **27. Valenciennea phaeochalina Tanaka, 1917  "Taduna-haze"
   28. Waitea parvida Tanaka, 1915  "Kasuri-haze"

  *を付けたものには、以下の情報が含まれている。
   模式標本の黒白写真
   模式標本のレントゲン写真
	模式産地
	原記載(及び図)
 **所在不明
***Carnegie Museum

(坂本 一男)


[編者注] この展示内容に関する最新情報や関連資料等は、随時、 東京大学総合研究博物館のインターネットサーバ上の 以下のアドレスで公開、提供していきます。

https://www.um.u-tokyo.ac.jp/DM_CD/JOSETSU/DOBUTSU/HOME.HTM


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