コレクション

新規収蔵の蓮實重康博士旧蔵美術史研究資料

筒井 弥生

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本年3月、蓮實重彦本学総長(当時)よりご尊父蓮實重康氏(1904-1979)の美術史研究資料が本館に寄贈された。

蓮實重康氏は明治37年(1904)5月30日、東京麻布の生まれ。昭和5年(1930)京都大学文学部美学美術史科を卒業、帝室博物館鑑査官を務めた。戦後、文化財保護委員会保存課技官、奈良国立博物館学芸課長を経て、昭和30年(1955)京都大学文学部美術史講座担当教授となった。昭和37年(1962)、日本美術史叢書2の「弘仁・貞観時代の美術」(東京大学出版会)をまとめると、日本美術を紹介するため欧州へと旅立った。それから昭和41年(1966)にかけて、コペンハーゲン大学(デンマーク)、ボン大学(旧西ドイツ)、ミシガン大学(アメリカ)などにおいて「桃山時代の絵画」その他を講義した。帰国後は美術史家として活躍する一方、東海大学教養学部芸術学科教授として日本美術史の講座を担当した。 昭和54年(1979)1月11日 東大付属病院で逝去。73歳であった。

その著書には上掲書のほか、『雪舟』(弘文堂)、『雪舟等揚論—その人間像と作品』(筑摩書房)、『ほほえみの美学』(東海大学出版会)、『雪舟等楊新論—その人間像と作品』(朝日出版社)がある。また、絵画や仏教美術に関する論文を多数発表された。

この度寄贈いただいた資料は、画像資料が中心で、A3判の台紙に貼られた写真図版をファイルにしたもの、A3判ないしA4判の台紙に貼られた写真、大四切サイズから名刺サイズまでのさまざまな大きさの写真、ポストカード、帝室博物館図録などの印刷物、その他で構成されている。

ファイルされている内容は、絵画と彫刻に大別される。絵画は雪舟、蕪村、アメリカ合衆国ミズーリ州カンザスのネルソン=アトキンス美術館所蔵の許道寧、江参、夏珪、李、張彦輔、周臣、沈周、文徴明、賢、姚燮、マサチューセッツ州ボストン美術館所蔵の源、李成、馬遠、陳所翁、李など、ワシントンDCフリア美術館所蔵の郭煕、徐世昌、オハイオ州トレド美術館所蔵の郭煕、そして故宮博物院名画三百種から数点などである。また彫刻は平安期の仏像、地蔵、神像、枕本尊と題したファイルに加えて室生寺、東寺、会津勝常寺、神護寺、唐招提寺、醍醐寺、興福寺、法華寺、大安寺、弘福寺、延暦寺、島ヶ原正月堂に関連するものである。ファイルはつくられていないが台紙に貼られた資料類には、仏画のほか、箕面勝尾寺、禅定寺、渡岸寺(向源寺)、箱根神社、橘寺、鰐淵寺、園城寺、元興寺、新薬師寺、高時薬師堂、正花寺、岡寺、小津寺などの仏像、そして文部省の昭和40年度科学研究費助成による図版が含まれている。さらにA4判台紙に貼られた埴輪の資料が多数ある。これらでファイル数70、台紙数約700枚、写真枚数約1000枚となる。

写真、ポストカードには絵画、仏像に加えて、渡欧の際に入手されたと思われる古代ギリシャの彫像、スウェーデンのイェリング・ストーン、デンマークのリスビエル教会黄金祭壇やクラウス=ベルグの聖母像、聖ヨハネ像、そしていくつかの石碑がある。これらの写真は大小あわせておよそ600点、ポストカードは50点になる。

写真の撮影者が明記されているのは坂本万七、橋本孝司、T.SATO(佐藤辰造)によるものである。橋本孝司氏撮影の渡岸寺十一面観音と鶏足寺薬師堂薬師如来像には(昭和)36年9月27日のスタンプが記されている。撮影日の記載があるのはこのほかに東大寺四月堂の(昭和)35年5月25日、禅定寺阿弥陀三尊の中尊の昭和39年12月29日、岡寺の(昭和)28年2月19日(奈良文化財研究所)などである。また版権が各美術館のほか飛鳥園、鹿鳴荘、坂本写真研究所にある写真も多数含まれている。坂本写真研究所(現・坂本万七写真研究所)を主宰していた坂本万七(1900-1974)は美術写真の第一人者で、本コレクションにはその作品が100点以上含まれている。

蓮實重康氏はその生涯の三度にわたって雪舟についての著作を出版している。また、昭和31年(1956)は世界的な雪舟ブームだったそうである。その時期をくぐりぬけた本コレクションは、雪舟に関しては等楊作も含めた相当数に加えて、彼に影響を与えた作家、受けた作家の作が網羅されている。なかでも、多数の部分図や落款、印章部の写真が圧巻である。また四季山水図の由良家本とフリア本が同一作品の左右双とする発見に関する記述もみられる。水墨画ばかりでなく襖絵や屏風の写真資料も多数、工夫されたかたちである。
彫刻作品についても弘仁仏を中心に地方仏も含め多岐にわたって研究されている。撮影時期が数十年以上前から昭和30年代と推定されることからの貴重性に加え、仏像のなかには秘仏もあって、今日なおアクセスのむずかしい寺院所有の仏像の写真を目にすることができる。今後の研究にもおおいに活用されうるであろう。

当博物館ではこの蓮實重康氏が永年の美術史研究で築かれた総点数約1500点の貴重な資料を大いなる感謝をもって研究部資料室に保管し、ご希望の方には閲覧を可能とする所存である。多くの美術・写真研究者ならびに愛好家の方々にご覧いただきたい。

尚、資料に関する詳細な情報はホームページ上に公開予定である。

※ 現在、デジタル画像データが「蓮實重康博士旧蔵美術史資料データベース」として公開されております。

 

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ハーバード大学大学院博物館学課程在学・本館研修生)

新規収蔵品一覧
図録:
奈良帝室博物館彫刻図録 天平時代第3集(昭和10年発行)、
 帝室博物館図録4-10(昭和11年発行)など

冊子:泉屋復古(昭和36年)・泉屋復古解説(1954)梅原末治、
 『關義臣逸聞』&水戸史学 28号 その他

絵葉書:池大雅美術館、紀伊冨田草堂寺宝物(蘆雪など)、京都・養源院、讃岐興田寺、慈眼寺聖観音、四季楼閣山水図、ヨーロッパの彫刻作品など 計50点

写真図版ファイル:
・許道寧、江参、夏珪、李、張彦輔、周臣、沈周、文徴明、賢、姚燮、菫源Boston、李成Boston、馬遠Boston、陳所翁Boston,李Boston、郭煕トレド、郭煕フリア、徐世昌フリア、故宮博物院
・雪舟(1)-(5)、等楊、松平家山水図屏風、静嘉堂山水図屏風、前田家山水図屏風、蕪村

・平安彫刻(1)-(5)、平安・地蔵、平安・神像、枕本尊
・室生寺、東寺、会津勝常寺、神護寺、唐招提寺、醍醐寺、興福寺、法華寺、大安寺、弘福寺、延暦寺、島ヶ原正月堂

台紙つき写真:
・向源寺、箱根神社、橘寺、鰐淵寺、園城寺、元興寺、新薬師寺、高時薬師堂、正花寺、岡寺、小津神社、唐招提寺、勝尾寺、醍醐寺、橘寺、法華寺などの仏像
・文部省の昭和40年度科学研究費助成図版
・埴輪

写真:
坂本写真研究所(宗達、山楽、永徳、友松、等顔、信春など)、飛鳥園(東大寺灯篭)、醍醐寺三宝院、雪舟関連、ギリシャ関連(コレ像など)、デンマーク関連(教会祭壇、Claus Bergの彫像)、スウェーデン関連(石碑など)、仏画、仏像、埴輪など

 

  



Ouroboros 第14号
東京大学総合研究博物館ニュース
発行日:平成13年7月13日
編集人:西秋良宏/発行人:高橋 進/発行所:東京大学総合研究博物館

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