第2部 展示解説 動物界

軟体動物の分類と系統関係

腹足綱 (Class Gastropoda)

 

直腹足亜網 (Subclass orthogastropoda):

 始祖腹足亜綱以外のすべて腹足類を含む ( 図 16) 。 歯舌が摂餌時に柔軟に左右方向にも広がる軟舌型 (flexoglos-sate) である点が重要な特徴である。

古腹足上目 (Superorder Vetigastropoda):

 貝殻の形は様である。しかし、解剖学的に多くの特殊化した共通の形態をもつ(Sasaki,1998) 。 (1) 鰓は膜によって外套腔内に固定されている。 (2) 神経系がはしご状。 (3) 独特の感覚器官 (鰓感覚器官、上足突起、触覚にある感覚乳頭突起、上足感覚器) が発達する。 (4) 腎臓は左右 にあり、左側が特殊化する (papillary sac と呼ばれる) 。 (5) 胃盲嚢がらせん状になる。 (6) 歯舌は扇舌型。

 オキナエピスガイ上科 Pleurotornarioidea は、切れ込みや孔のある円錐形の殻をもつ。オキナエビス科 Pleurotomariidae(佐々木 2002: 図 Ⅱ) は必ず切れ込みをもつが、クチキレエピス科 Scissurellidae( 図 17A,17B) では切れ込みが閉じて孔になるものがある。 scissura はラテン語で「切れ目」を意味する。 ミミガイ科 Haliotidae はいわゆるアワビの類である ( カラー図 2A) 。平低な殻 に複数の孔がある。これらの孔や切れ込みはガス交換の終わった水や排世物を外套腔から排出するための構造である。英名は abalone。スカシガイ上科Fissurelloidea のスカシガイ科 ( 図 17C17D) は笠型で、やはり鰓を 2つもっている。切れ込みや穴を形成する種が多い ohsura は scissura と同様に「切れ目」や「割れ目」を意味する。 ニシキウズガイ上科 Trochoideal は、 円錐形の殻をもつ種が多い。ニシキウズガイ科 Trochidae とサザエ科 Turbinidae は主に歯舌や蓋の形質で分類されている。 どちらも真珠構造をもち、殻口内は真珠光沢に富んでいる。サザエ科では蓋が石灰化しているものが多い。 しかし、カタベガイ類 ( カラー図 2B) では例外的に蓋は有機質である。ワタゾコシタダミ科 Skeneidae( 図 18A-C) は小型で白く、真珠構造をもたない点で、 ニシキウズガイ類と区別される。フネカサガイ上科 Lepetodriloidea のフネカサガイ科 Lepetodrilidae は深海の化学合成生物群集に生息する特殊な科である。 ホウシュエピス上科 Seguenzioidea のホウシュエビス科 Seguenziidae( 図 18D) はニシキウズガイ型の殻をもっているが、殻口に深い湾入をもつ。深海の泥底に生息するグループである。

ワタゾコシロガサ上目 (Superorder Cocculiniformia):

 貝殻は左右相称の笠型で、原殻も相称である。同時性の雌雄同体の種が多くみられ、体内受精で交尾器官をもつ。腹足類の中では異鰓類を除いては雌雄異体が普通であり、同時性の雌雄同体は例外的である。食性が特殊化しており、海底に沈んだほ乳類の骨や、沈木な どに付着して、それらを削りとって食べている。

Ponder and Lindberg(1997) の系統解析の結果では、この目は多系統である可能性が示されている。 ワダツミシロガサガイ上科 Lepetelloidea は古腹足類に含まれる可能性があり、ワタゾコシロガサ上科 Cocculinoidea はアマオブネガイ上目とともに、その他の直腹足類と姉妹群を形成する。 上記の 2上科の分類は主に殻と歯舌の形質にもとづいて行われている。ワタゾコシロガ上科は全て笠型。 ワタゾコシロガサ科 Coculinidae(図 18E)は深海の沈木に付着する。ワダツミシロガサガイ上科のオトヒメカ サガイ科 Pseudocculinidae は同様に笠型で、深海の沈木に付着する。 ウロダマヤドリガイ科 Choristellidae は螺旋状の殻と蓋をもち、サメの卵嚢を食べる。

アマオブネガイ上目 (Superorder Neritopsina):

 古腹足類やその他の比較的原始的な腹足類と同様に、歯の数が多い扇舌型の歯舌をもつ。また、鰓の構造 (skeletal rods が無い) はカサガイ類に類似して原始的である。一方で、体内受精を行い卵嚢を産みつけるが、これは一般的により進化した腹足類に見られる形質である。そのため、「原始腹足類 」と新生腹足類の中間的なグループと見 なされてきた。殻の形は、巻貝の形をしたものから、笠型まで様々であり、貝殻を欠くものさえある。淡水〜陸上に進出したグループである。アマオプネガイ目は 7科に分類されている。アマオプ ネガイ科Neritidae は熱帯から温帯にかけての潮間帯の岩礁に多産する。外見上は螺旋状に巻いているが、螺層の内部は再吸収されて、大きな空洞になっている。 そのため、内臓塊は螺旋状ではない。アマガイモドキ科 Neritopidae は生きた化石として有名であり、最近になって海底の洞窟に生息することが明らかになった。 コハクカノコ科 Neritiliidae のシラタマアマガイ類 ( 図 19A) も同様に海底洞窟に生息し、一方、コハクカノコ 類 ( 図 19B) は河口域に生息する。チチカケガイ科 Titiscanildae は殻を全く失いナメクジ状である。ユキスズメガイ科 Phenacolepadidae は笠型の貝類で、ユキスズメ類 Phenacolepas は浅海の石の下に埋もれた状態で生活し、シンカイフネアマガイ類 Shinkailepas は深海の熱水の噴出域に生息する。ゴマオカタニシ科 Hydrocenidae(図 19C) とヤマキサゴ科 Helichidae は 陸上に進出したグループである。

熱水固有分類群 “Hot event taxa":

 1980年代以降、深海の化学合成生物群集から新しい科が発見された。 それらの科の系統上の位置は完全には定まっていない。 Ponder and Lindberg(1997) の分析では、古腹足類 またはアマオプネ上目とワタゾコシロガサ上科と様々な関係を示す結果が得られている。ネオンファルス上科 Neomphaloidea とベルトスピラ上科 Peltospiroidea に分類され、日本周辺の深海からは前者に属するカイコウケシツプシタダミ Retiskenea diploura の 1種しか知られていない。

 

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