第2部 展示解説/鉱物界

REGNUM LAPIDEUM

鉱物の色の多様性
〜化学元素がつかさどる色



橘 由香里

 

鉱物の色の美しさ

 鉱物の色の美しさとその多様性は、古今東西多くの人々が「石」に魅了さ れてきた最大の要因であろう。かつて鉱物の名はラテン語の rubeus( 赤い ) と sapphius(青い)を語源に持つルビー(Ruby 紅玉 : 鉱物名は Corundum 鋼玉)と サファイア(Sapphire 青玉 : 鉱物名は Corundum) のように、色にちなんで名付けられる こともあった (図1) 。鉱物の色の美しさは、花や蝶の色の美しさに通じるものがあり、自然美 の象徴ともいえる。

 私たちの生活の中に鉱物の色の美しさが溶け込んだ例としては、宝石として愛でたり身につけた りすることが最もなじみ深い。美しさだけでなく、希少性や耐久性、携帯性を考慮に入れたとし ても、現在、宝石と呼ぶのに相応しい物質は数百種類あるといわれている。数千万年以上を経た マツヤニである琉泊や、真珠などを除けば、宝“石" の名のとおり、その 9 割以上が「石」 すなわち鉱物である。「石」が大半であるのは、鉱物は一般的に硬く、一部を除いて槌色せず、 耐久性に優れていることが主因である。現在でこそ、無色のダイヤモンドが宝石の王様とされて いるが、適切な研磨・加工が施されてその輝きが引き出されたのは 15世紀半ば以降であり、 それまでは色の美しい鉱物こそが宝石であった。

また、他に鉱物の色彩美を生活に取り入れた例としては、マラカイト(Malachite 孔雀石)は青緑色 が鮮やかな鉱物であるので、粉末にしたものが古代エジプトで世界最古のアイシャドーとして使わ れていた。クレオパトラも愛用していたという。この鉱物は、今でも岩絵具の青緑色の原料とし て使われている。岩絵具に使われているものには、アズライト(Azurite 藍銅鉱一群青色 ) やオ ーピメント (Orpiment 石黄一黄色)もある (図 2) 。

 さらに、鉱物の色から人聞が想像力を働か せた例に、アメシスト(Amethyst 紫水晶 : 鉱物名は Quartz 石英)などがある。古代ギリシャ ではアメシストがブドウ酒色をしていることから、この石でつくられた杯で酒を飲めば酔っ 払わないとされていた。血赤色をしたアルマンデイン・ガ ーネット (Almandine Garnet 鉄ばん柘榴石) も十字軍の兵士たちが戦のお守りとして身につけていた(図 3)。

 もっとも、ひとくちに鉱物の色と言っても、その着色機構は複雑である。今回は、化学元素が司る 鉱物の本体の色(body color 地色)に焦点を当てて紹介するが、鉱物の色は植物や動物と比べて、 ①金や銀で見られる金属の色・光沢 ②研磨した宝石に代表される透明度こよる色調の変化 ③オパール (Opal 蛋白石 ) や、ムーンストーン (Moonstone 月長石 : 鉱物名は Orthoclase 正長石) ・ラプラドライト(Labradorite : 鉱物名は Microcline 斜長石)といったフェルスパー (Feldspar 長石)の仲間によく見られるような、光の回折・干渉・散乱によって特殊な色効果 ④本体は無色でも、特殊なインクルージョン(内包物)によって色がついてみえる場合(クロムマイ カ・インクルージョンによって緑色に見えるアペンチュリン・クォーツ (Aventurine Quartz)等) など、地色に加えて複数の要因から成ることが少なくないということも一言書き添えておきたい。

 

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