はしがき

 

館長 高橋 進

 

 21世紀が目ざす共通の目標として国際社会が掲げているのは地球共生の実現です。その鍵となるのが、植物や動物などの生物の多様性、それを支える物理環境の多様性の持続ですが、それをいかに実現していく かについては未解決の課題も多いのです。

 博物館は主として地球環境の多様性を解明するために必要な標本を収蔵し、研究を推進する施設ですが、 同時にその成果を積極的に社会に公開していくことも使命 としています。東京大学に付置される総合研究博物館も例外ではありません。まさに博物館は21世紀が目ざす地球共生社会実現のためのタワー的存在といえるでしょう。

 本博物館館は、東京大学の創設から今日まで、日本と周辺地域の自然解明のために収集されてきた170万点を超す日本最大の標本コレクションを所有しています。今回、本館が収蔵する標本を用いて、自然の多様性とその体系的な理解が今日どのようになされているのか提示してみました。

 歴史を辿るまでもなく、人類は自然の神秘を解き明かそうと古代からさまざまな挑戦をしてきました。しかし自然はあまりにも広大かつ多様であり、その神秘に満ちた謎を解く糸口を見出すことにさえたいへんな苦 労をしたのです。 17世紀に入り、ニュートンがあらゆる運動を力学という、単純な数理体系によって統一的に 解くことに成功したことで、人類はようやく自然を解き明かす糸口を見つけたといえるでしょう。

 ニュートンは種々雑多な運動の中に秘された共通性を発見することで運動の体系化に成功しました。 しかし、ひとつひとつが個性をもつ鉱物、植物、動物では、共通性に加えてその多様性 そのものの解明が欠かせません。18世紀になってリンネは、種を基準にあらゆる生物 の類似性と相違性にもとづく階層化を通じて、自然とその多様性を体系的にとらえることに成功しました。その後今日にいたるまでリンネが生み出した自然の体系をより完壁なものにすべく研究が進められています。

 リンネは1707年に生れました。まもなく生誕300年を迎えます。今回の展示は、この機会 に改めて、リンネの自然の体系の意義を知り、本館が収蔵する標本から体系化の現状を読み取っていただくことを目的に企画されたものです。自然の多様性や進化を通じて21世紀が目ざす地球共生についての理解が一層深まることを願う次第です。

 

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