フェーズ3

Making<製作>




 映画は総合芸術だと言う人がいる。それは企画書、台本、セット、撮影・編集技術、演技、演出、そして文学、芸術、美術、技術や工学など、実に多くの「能力のコラボレーション」の上に成り立っているからであろう。

 ところで私が携わる展示はどうかといえば、映画に勝るとも劣らない総合芸術なのではないかと考えている。なぜならそこには企画、プロダクト、グラフィック、映像、造形、ファインアートなどのデザイン、芸術、建築、デジタル技術、そして、こと博物館の展示となると、これに学術調査、研究、学術プランニング、解説テキストなどの学際的な要素も関わってくるからである。

 本特別展示を見てみると、決して規模も大きくなく期限付きの展示であるが、これもまた多くの能力のコラボレーションの上に成り立っているのである。

 フェーズ3・製作-Makingでは、実際に本展のデザイン製作に関わったクリエーターの立場から、まだ完成をみない(この原稿は公開前に執筆)「石の記憶-ヒロシマ・ナガサキ」の創造に向けたクリエーターのこだわりともいえる思いを交えながら、その製作の現場の様子の一端をコラージュ的に紹介する。

 2002年10月、東京大学総合研究博物館にミュージアム・テクノロジー研究部門が発足してから一年強が経過した。同部門は「展示工学」と称した博物館のこれからのあり方やそれらに関わる様々な技術についてソフト・ハードの両面から研究を行い、机上での枠を超えた具体的な姿として検証してみせることを目標としている。

 そのひとつが今回のような、当館内での実験展示である。展示の専門家である私のそこでの役割は、以前からある研究系の教官の研究に、展示の効果や見せ方も研究対象として扱い、大学博物館の実験をより広範かつ深度のあるものにしていくことではないかと考える。それは学術と展示技術・デザインのコラボレーションということができよう。

 実験展示と一般展示の違いは何か。それはこれらミュージアム・テクノロジーのブラッシュアップを目的とするか否かかもしれない。当図録のパートで前半に記した着想から具現化までのプロセスを振り返ること、それはまさにクリエーターとしての思い、狙いを見返すことであり、この反復的な視点を維持、継続させることがミュージアム・テクノロジーを発展させる一助となるのではなかろうか。

 今後もこの実験展示の場を有効に活用し、館内外とのコラボレーションを通じて、博物館展示の可能性を広げるための「ミュージアム・テクノロジー」を切磋琢磨していくこととなる。




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