往復書簡
マーク・ダイオン & 西野嘉章  

 

2002年10月17日

西野先生 お手紙ありがとうございます。南仏のデイ一二ュ地方にしばらく滞在したことがおありになると伺ってびっくりしました。わたしはプ口ヴァンスの国立地質保護区に招かれているのですが、ここはヨーロッパで最大の地質保護区で、古生物学者 のメッカです。ここではたくさんの化石標本が発見された場所にそのまま保管されています。景色はすばらしく、貴方がこの土地 に愛着をお持ちなのもよくわかります。きょうはイタリアまで足を伸ばし、将来のプロジェクトのために力ラリオの博物館を見にきました。ここに来るのに恐怖のアルプス越えドライヴをしましたが、一見に値するものでした。この季節にはすでに羊の群れは山を追われて町や農場に降りてきていました。絵葉書はまだお送りするつもりです。

マーク・ダイオン

カラリオ(伊)の樫の葉のフィールド・スケッチ


2002年11月1日、東京

マークへ、

二日間東京に滞在し、自宅に戻られ、さぞや疲れたことでしょう。ぼくらは、この手の短い旅行を「トンボ帰り」と呼んでいます。

講演会、たいへん面白く聴かせてもらいました。行動主義者のきみがどのようなスタンスに立って、いろいろな場所の環境的メカニズムに関心を払ってきたのか、どのような知的手法でもって、そのメカニズムを多様なモノの見事なアサンブラージュに組み立ててきたのか、そうしたことが聴きに来た人たちによく伝わったと思います。話の核心がはっきりと見えたのは きみが博物館のスタッフの質問に答えるかたちで、次のように述べたときです。サイエンティス卜は真理を探らねばならないが、アーティストは必ずしも真理を語る必要がない。自分はサイエンティストになろうなどとしたことはないし、 またサイエンテイス卜のふりをしたこともない。あの発言とてもよかったです。

思うに、今のサイエンスというか、もっと広い意味で科学的思考というか、これが「ラチオ」 ( 論理的分析 ) に縛られ身動きできずにいます。一方で、サイエンテイストは現実の世界を、あるがままの姿に眺め、それを寓意的に再現してみせる「イマジナチオ」( 想像力 ) を失っています。とくにひどいのが、いわゆるアカデミックな組織に属する人たちです。アーティストとして、どんな学術的な拘束からも自由でいること、これはすごく意味のあることのように、ぼくは思うのです。

われわれのプロジェクトに、多少なりと役立つことがあるとするなら、それは頭の固い学者さんたちを視野の狭さから解放し、彼らに芸術的な想像力と、創造性の大切さを解らせることかもしれませんね。

ではまた。 西野嘉章


 

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