螺層の内部
巻貝の殻の内部にはどこまで軟体部が入っているのでしょうか。それは種によって様々です。巻数の少ない種ではたいてい螺層の上方まで軟体部が詰まっています。一方、巻数の多い種では、螺層の上方は利用されず、中空になっていることがあります。例えば、キリガイダマシ類Turitellaは内部に不規則に隔壁を形成して、不要になった空間にふたをしてしまいます(図2-31)。一方、熱帯の浅海に棲息するタケノコガイ科Terebridaeの中には上方の螺層の内部を全て石灰質で埋め尽くしてしまう種も存在します。
巻貝には殻の内部を再吸収するものがあります。イモガイ科Conidaeとマクラガイ科Ovulidaeは全て厚い堅固な殻を持ちますが、螺層の内部は紙のように薄くなっています。一方、アマオブネガイ科Neritidae、ヤマキサゴ科Helinicidaeでは、螺層の内部は完全に吸収されて中空になります。その部分は動物体の内臓塊も螺旋状には巻いていません。このように殻の内部を再吸収してリフォームする成長様式は、内部再構築(internal remodelling)と呼ばれています。機能的には、殻の強度を損ねることなく、内部の空間を効率的に利用できる意味があると考えられています。
臍孔
殻口の内唇の位置が螺旋の軸から大きく離れると螺管の下側に隙間が形成されます。この隙間は臍孔(umbilicus)と呼ばれます。腹足類ではニシキウズガイ科Trochidae、タマガイ科Naticidae、クルマガイ科Architectonicidaeなどに臍孔が存在しています。
臍孔はしばしば滑層(callus)によって埋められます(図2-32)。グループによっては、ほぼ同一の環境に棲息する類似種でありながら、臍孔が開くものと閉じるものがあります。クボガイChlorostoma lischkeiとヘソアキクボガイChlorostoma turbinatum、トミガイPolinices mammillaとヘソアキトミガイPolinices flemingianus、キサゴモドキEthalia guamensisとアカベソキサゴモドキEthalia sanguineaがそのような例です。これらの貝類では臍孔の有無と生活様式の間に直接の関係がありません。従って、臍孔の機能的な意味は明らかではありません。
特殊な例では、スリバチシタダミ Margarites vorticiferaは臍孔を幼貝を保育(brooding)するための空間として利用します。そのため、雌の臍孔は雄のものより広くなっています(図2-33)。陸貝のエンザガイ科Endodontiidaeにも同様の習性をもつものが知られています。
新生腹足類では水管溝が反り返って殻の末端部のみに隙間が形成されることがあります。その場合、隙間は上方の螺層の内部には及びません。このような隙間は偽臍孔(pseudoumbilicus)と呼ばれます。
頭足類の殻にも臍孔が形成されることがあります。オオベソオウムガイNautilus macromphalus、ヒロベソオウムガイNautilus scrobiculatusは臍孔が形成されます。しかし、同類のオウムガイNautilus pompiliusには臍孔がありません。
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