ごあいさつ

東京大学総合研究博物館館長

高橋 進


  東京大学総合研究博物館は一九九六年五月に旧資料館から改組されて以来、学内各所に収蔵されている学術標本の総合的な調査・研究、データベース化を続けてきました。同時に、積極的な展示をおこない、それら学術標本の公開につとめてきました。展示は、常設展、デジタルミュージアム展、新規収蔵品展、東京大学コレクション展など多岐に渡っておりますが、その特色は単なる所蔵品の開示にとどまらず、学内で進行中の研究の成果をも公開するという点にあります。

  今回、企画した「北の異界」展は、東京大学コレクション展と名付けて継続してきた特別展シリーズの一三回目にあたります。本学大学院人文社会系研究科の附属実習施設および考古学専攻のスタッフが、オホーツク海沿岸、北海道常呂町で現地調査を開始して既に半世紀近くが過ぎました。この間に、常呂町に蓄積された古代北方諸文化に関する考古学資料は膨大な量にたっしています。今回の展示は、その中からクマ・海獣など骨角彫像を中心としたオホーツク文化期の優品、約四〇〇点を上京させ、一堂に公開する初めての試みです。

  オホーツク海沿岸といえば、北のはずれ、辺境のようなイメージをもちますが、古来、ここは北と南の人と文化が接する交流の場でした。この展示では、五〜六世紀頃、北海道のさらに北から渡来し、定着し、そして一〇世紀頃忽然と姿を消した先史時代渡来民の活動と交流に焦点をあてています。その出自や末路については、なお、未解明の謎が少なくないものの、土着の人々との交流の末、アイヌの人々の文化習俗の成立に影響をあたえたと聞き及んでいます。

  長期に渡る現地調査は地元、常呂町の方々の協力無しにはなしえなかったものです。これまた異質な世界からやってきた東京大学の研究者を暖かく迎え入れ、謎につつまれた古代北方諸文化の解明に、ともに尽くしてくださっていることには感謝にたえません。野外調査を学術標本収集の原動力とする本博物館にとりまして、今回の展示が自らのフイールドワークのあり方を再確認する契機になることも望んでおります。

  最後になりましたが、共催をこころよくお引き受けいただき、展示事業に全面的に御協力いただいた本学大学院人文社会系研究科、北海道常呂町をはじめとする多くの関係各位、機関にあつく御礼申し上げます。





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