11 版画は「オリジナル」か「複製」か?





 油彩画を基軸とする「絵画の歴史」によると、1400年頃に誕生した「版画」はその成り立ちからしてマス制作を可能にする複製メディアとして位置づけられる。事実、デューラー、レンブラント、ゴヤなど、画家が自らの手で原版を彫った例外的な事例を別にすると、圧倒的多数の版画は、原版彫刻師、摺師など、画家が第三者の協力を仰ぎつつ制作された協同作業の成果物であった。画家が原画を描き、彫刻師が銅版や石版にそれをコピー(描きおこし)、摺師がその原版からコピーを取る(刷る)のである。一般に原画を描いた画家が版画の制作者と目されるが、版画制作の一連のプロセスのなかで、なにをもって「オリジナル」とすべきなのか、答えるのは必ずしも容易でない。


11-1 ミヒャエル・ヴォルゲムート(1434−1519、『使徒バルトロマエウス』
木版画、縦14.0、横10.7、紙寸縦16.5、横11.8、ハルトマン・シェーデルの『年代記』(ニュールンベルク、アントン・コーベルガー、1493年)の挿絵より


11-2 ハンス・バルドゥング=グリーン(1484/85−1545?)
『トロイの陥落』、木版画、縦18.0、横14.0、紙寸縦20.0、横15.5、ヨーハン・ラインハルトの出版になる『ウェルギリウス著作集』(ストラスブール、1502年)の挿絵より


11-3 リュカス・ファン・レイデン(1489−1533?)『キリストの捕縛』(後刷り)
エングレーヴィング、書籍、縦11.7、横7.6、書籍寸法縦21.7、横17.2、『キリスト受難伝』(1521年)より


11-4 ハンス=ゼーバルト・ベーハム(1500−1550)『キリストの捕縛』
木版画、縦12.7、横8.3、紙寸縦21.5、横16.8、フランクフルト、1530年


11-5 ロッソ・フィオレンティーノ(1494−1540)『カロンの渡し(仮称)』
エングレーヴィング、縦27.6、横43.0、紙寸縦横同上、イタリア、1541年頃


11-6 ピーテル=パウル・ルーベンス(1577−1640)画
ナティエ描、エデリンク刻、『トスカナ大公妃ジャンヌ・ドートリッシュ』による、エッチング、縦50.2、横27.7、紙寸縦53.2、横30.8、アントウェルペン、17世紀第4・4半世紀


11-7 レンブラント・ファン・レイン(1606−1669)『三本の十字架(二人の盗賊のあいだで十字架にかけられたキリスト』
ドライポイント+ビュラン(複製)、署名と年記「Rembrandt f. 1653」、縦38.5、横45.0、1653年


11-8 レンブラント・ファン・レイン(1606−1669)『聖母の死』(第二ステート)(コロタイプ複製)
エッチング+ドライポイント、署名と年記「Rembrandt f. 1639」、縦39.8、横31.3、1920年代


11-9 ポリドーロ・カルダーラ・ダ・カラヴァッジョ(1492−1543)画、ピエトロ=サンティ・バルトーリ(1635-1700)描・刻、画題未詳
エングレーヴィング、縦16.0、横45.5、紙寸縦横同上、ローマ、17世紀後半


11-10 ゲオルク・ブレンディンガー画、ヴァイゲル刻、『フリードリッヒ国王』による
メゾチント、縦45.0、横33.4、紙寸縦横同上、ドイツ、17世紀後半


11-11 カルロ・マラッティ(1625−1713)画、ジロラモ・フェッローニ(1687−1730)刻、『動くな』
エングレーヴィング、縦41.5、横29.7、紙寸縦横同上、ローマ、18世紀初頭


11-12 アントワーヌ・ヴァン=ダイク(1599−1641)画、ハムレット・ウィンスタンレー(1700−1760)作、『聖ペテロに天国の鍵を渡すキリスト』による
エッチング(試刷り)、縦29.4、横21.5、紙寸縦54.3、横38.1、イギリス、1728年


11-13 逸名版画家、ラファエッロ(1483−1520)『聖墳の前の三人のマリア(仮称)』による
エッチング、縦32.0、横27.1、紙寸縦横同上、フランス、18世紀(?)


11-14 ドメニキーノ(1581−1641)画、ヤコブ・フライ(1681−1770)刻、『旧約場面』による
エングレーヴィング、縦37.5、横30.9、紙寸縦38.2、横32.4、ローマ、18世紀中葉


11-15 逸名版画家、『ノーサンバーランドのバイウェル湾の眺め』
エングレーヴィング、縦37.2、横52.8、紙寸縦横同上、イギリス、1734年


11-16 クロード・ロラン(1600−1682)画、ジョゼフ・ファリントン描、カノ刻、『日の出』による
エッチング、縦28.8、横34.8、紙寸縦横同上、ロンドン、1775年


11-17 ガスパール・プッサン(1613−1675)画、ヨゼフ・クネゴ(1727−1794)描・刻、『ローマ近郊(仮称)』による
エッチング、縦54.6、横20.5、紙寸同上、ローマ、1781年


11-18 ティツィアーノ(1490−1576)画、ボレル描、アントワーヌ=ジャン・デュクロ(1742−?)刻、アリアメ刷、『ディアナとカリスト』による
エッチング(試刷り)、縦23.6、横36.6、紙寸縦51.1、横33.1、フランス、18世紀(?)


11-19 逸名版画家、『チャールズ二世皇太子リッチモンド公』、メゾチント(試刷り)
縦12.4、横9.2、紙寸縦32.8、横23.0、イギリス、18世紀(?)


11-20 ジャン=バティスト・グルーズ(1725−1805)描、ジャック・ワグネル刻、『良き教育』による
エッチングに墨、ホワイトの補彩、縦32.9、横25.5、紙寸縦横同上、フランス、18世紀後半


11-21 I・ハウエズ画、フランチェスコ・バルトロッツィ(1730−1813)刻、『四人のキューピッド』による、スティップル銅版画(ビストロ試刷り)
縦7.8、横9.9、紙寸縦13.8、横20.3、ロンドン、1791年


11-22 グイド・レーニ(1575−1642)画、ホジソン&トムキンス描、『ロトとその姉妹たち』による、石版画(図像)+スチール・エングレーヴィング(文字)
縦21.1、横27.1、紙寸縦43.5、横34.9、イギリス、1813年



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