縄文の記憶

− 坂村 健 −


博物館にとって実物の学術資料が重要であることは論を待たない。デジタル化は決して実物を不必要にする技術ではないし、ましてや実物の展示と二者択一的に対立するものでもない。 むしろ、デジタルミュージアムのコンセプトは実物よりなるリアルミュージアムと情報よりなるバーチャルミュージアムの融合が、これからの21世紀型博物館にとって重要であるというものである。

たとえば収蔵物のより完全な情報的コピーがデジタルアーカイブされていれば、原資料にあたる必要性を減らすという形で、原資料の長期保存にはとってはプラスになるだろう。また、デジタルアーカイブにある豊富な情報をネットワーク経由でコンピュータ検索することで、目的の実物資料がどこにあるかを、素早く無駄なく見つけることができる——このことによる、資料の有効利用の意義も大きい。

このような提示実際の物の展示をコンピュータにより援助するというコンセプトを提示するために、今回の展示会では東京大学に豊富な資料がある縄文時代に焦点を当てた。縄文時代については本学では山内コレクションやモース大森貝塚コレクションなどに代表される豊富な資料を持つが、それと同時に多彩な学問分野をリンクした多彩な切り口を「縄文」を軸として提示できるという、総合大学としての本学の強みが十分に発揮できるテーマであると思われたからである。例えば、縄文時代の地球物理的な環境、同時代の他地域との比較、「縄文」を分析するために使われる各種の科学的技法、さらには長い歴史の中での縄文の位置づけなどが、「縄文」を軸として互いに関係を持つように提示される。「縄文」は、そのようなコラボレーションから新しい知見が得られるとともに、総体としての理解を促されるという重層的な深みのある展示が可能なテーマであり、特にデジタルアーカイブのコンセプトにマッチしていると考えたのである。


そのために、実際の縄文展の場で、情報と実物の融合した様々な演示手法を実現し来館者に体験してもらうことで、その具体的な有効性を示すこととした。例えば、来館者がヘッドマウントディスプレイを装着すると、見ている展示物に合わせて空中に解説が投影されるとか、光ポインタを使い展示物を指し示すことで、その音声解説をヘッドフォンに呼び出せるとか、来館時に得たIDにより帰宅後インターネット経由で来館時に見た物のより詳細な情報を受け取るといった、新しい博物館体験を実現する。

また、複数の博物館を超高速回線で結び、あたかも一個の博物館であるかのように機能させるという分散ミュージアム構想のコンセプト提示のために、これも「縄文」を軸に国立歴史民俗博物館で「縄文の記憶」展を同時開催し、そこと分散ミュージアム接続の実験を行うこととした。さらに、縄文遺跡の実際の発掘を行っている北海道の常呂遺跡と沖縄国際大学も通信回線で結び、テレマニピュレーション技術により現地にいるかのようにリアルタイム観察できるという、新しいコンセプトの分散接続実験も行う。

このような「縄文」を軸とする展示の実現については、本学人文社会系研究科の今村啓爾教授と、国立歴史民俗博物館の西本豊広教授に特にお世話になったことを、ここに記して感謝したい。