[ニュースという物語]


重なりあうまなざし

新聞錦絵が伝えたいくつかのニュースは、素材とした新聞そのものを違えながら、話題内容が重なりあっている。なかには、先行する新聞錦絵を引用したとおぼしき画像の重なりあいもある。これらは関心の偶然の一致という以上に、物語を成立させるリアリティの「型」ともいうべきものを暗示してはいないだろうか。

東京日々新聞 第九百三十三号

東京日々新聞 第九百三十三号

東京、本郷三丁目の事件。口に突っ込んだのは記事では「短刀」であるが、画面では視覚的な効果をねらってか、長い刀になっている。赤と黒を使った血の表現は、すでに残酷絵のなかで確立していたものの応用である。

東京日々新聞 第九百三十三号

本郷三丁目の飯島安五郎と申人の養女おしんと言ふが元の夫喜三郎に/殺されたそうだが一体此喜三郎と言ふハ常州真壁郡市野辺村の白沢/与兵衛と申人の二男で経師職なるをおしんが聟に貰た処が我意者で養/父母の教訓を少しも聴ず夫故平日家内が不隠て夫婦中も/不熟度々媒酌をした人が立入て異見して済した事もあれ/ど兎角無法斗り言ふ故ついに金子を遣て離縁して其事/を扱所へも届事済になりしを如何心得違か二月十一日の/夜中おしんが家へ忍入て/同人の口へ短刀を突込殺しに/掛たをおしんが大声を揚たので両親が驚ておしんが傍へ行で見ても/行燈ハ消て真黒暗なんだか分らぬから火を燈して見ると離縁した聟殿が/匕首を持もつて立て居ておしんハ血だらけて死で居る故仰天して四隣へ知らせ巡査へ/知らせたから河野某と言ふ巡査が直駈附けて召捕たが何れ人殺だ/から打首になるだろう誠に痴愚人にハ困り升す。其愚にハ及ぶ/べからずと/聖人も/お歎息/なされた

待乳山麓 温克堂龍吟記

図236

郵便報知新聞 第五百八十九号

同じ事件が、『郵便報知新聞』でも報道され、芳年によって新聞錦絵にされている。かねて用意の「九寸五分」で口の中へ「グサと」刺し通すというまったく同じ場面を描いている。この事件の凄惨さが身体感覚的に伝わる、物語の核心がそこにある。

郵便報知新聞 第五百八十九号

本郷春木町なる経師屋安次郎ハ養女しんに/同職喜三郎といへる者を聟にとり老行末を/楽ミしが此喜三郎ハ生得慳貧にして常に舅/姑の意に忤ひ妻しんとも朝夕喧嘩のミし/けれバ拠なく十円の手切金を遣し荷/物残らず引わたして其家を出せしに喜三郎/ハ未練にもしん女に執心をのこし二月十二日の/夜其家の寝静を窺ひ忍び入て用意の/九寸五分を以て仰向に臥たるしんが口中/より領へグサと刺透せしかバ阿とート声/叫びもあへず其儘息ハ絶たるが此物音/に目醒る老父 起さまに曲者と引組で/押伏せたる間に妻も声揚呼ハりしかバ/巡じゆん査も速に駈来り早くも縄をかけたり/ける

真恵郎浜栗記

郵便報知新聞 第五百八十九号
図235

東京日々新聞 第千十五号
新聞図会 第三十八号

東京大学法学部附属明治新聞雑誌文庫蔵京人形とあだ名された美人の女房が、居候と密通した。それを知った薬屋の主人は、巨大な「のし」を作って女房に背負わせ、どこへなりとも持っていけと間男に差し出したという話。「のしをつけてくれてやる」という口言葉が下敷きにある。『新聞図会』が『東京日々新聞』に出た記事をもとにしたことは文中に明らかだが、新聞そのままからというより、新聞錦絵を経由した情報と画面の引用を思わせる。

東京日々新聞 第千十五号

大坂天満の横通りに昔よりして聞へたる。はらはら薬を売る主ハ呂太夫/とよぶ義太夫の師匠の女房ハ美麗にて。売薬よりも名に高く京人形と/混名を/得しが。兼て此家の/寓公と密通したる/を呂太夫ハ。疾くも知/りて大きなる熨斗を/つくりて女房に背負ハせ。/彼の寓公を呼出して。年来/所持の京人形を。足下の玩弄に進ぜる/ほどに。何処へなりとも御持なされと。追出されて/二人とも不覚の涙はらはら薬。手に手をとって出ゆきしは。/主人が語れる茶理場に似たり

図237

新聞図会 第三十八号

昔から名高き大阪天満のはらはら薬の/元の主人ハ今ハ呂太夫とて浄瑠璃の/大天窓となり其女房ハ京人形と混名を得たる二十二三の美人なるが/何の程よりか其家にのらくらしたる/食客と密通して居たる事を/呂印が嗅つけ何の間に誂へ/置しや或日一畳敷の大のしを/持来るを其儘女房の背中/に結ひつけ彼寓公を呼出し此/京人形を貴さまの玩物にやる/さかい何處へなりとも持行けと/共ニ其家を追出しけると扨も/愉快なはらはら薬ならずやと/東京日々新聞にまで出たり/もろ人もかたり伝へてききつらん/扨もきれいなはらはら薬

新聞図会 第三十八号
図238


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