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情報をエディットする建築/ランドスケープ
「霧島彫刻ふれあいの森アート・ホール」、 「平田町タウンセンター」のコンペを通して

坂本一成研究室


霧島彫刻ふれあいの森アート・ホール
霧島彫刻ふれあいの森アート・ホール
2つのコンペは、いずれも緑豊かな広がりのある敷地に建つ、建ぺい率の小さな公共施設である。このような設計条件から、建築単体が敷地全体に対して、さらには敷地を超えて周囲の環境に対してどのように関わるかがテーマとなった。

「霧島彫刻ふれあいの森アート・ホール」は、野外彫刻を中心とした「彫刻ふれあいの森」の拠点施設であり、国立公園である鹿児島県霧島高原のなだらかな丘陵地に位置する。敷地の北側にこの森の利用者のための駐車場があり、南側に野外展示ゾーンが拡がるというゾーニングがあらかじめ示されていたことから、私たちはこの建築を森全体のゲートとして位置づけた。ゲートは斜面に沿って蛇行して並べた幅60cmの集成材のフェンスからなり、彫刻の森を大きく2分して駐車場からの人の流れを制御する。この木製フェンスはまた敷地をいくつかの領域に分節し、それぞれの領域はエントランスホール、展示室、収蔵庫、カフェなどの内部空間や、池、花畑、テラスといった外部空間を囲い、フェンス自体も彫刻の森のランドアートとなっている。フェンスを構成する材は、例えば展示室にとっては調光ルーバーとして機能するように、各領域の塀としてフェンスの内側の用途に対応して高さと角度を連続的に変化させている。内部空間はフェンスとは独立したヴォリュームとし、様々な架構をもつことで野外彫刻と同じように配置した。

北西方向より見る
北西方向より見る
管理事務楝から会議室を見る
管理事務楝から会議室を見る
アプローチ部からエントランスホールと展望ブリッジを見る
アプローチ部からエントランス
ホールと展望ブリッジを見る
「平田町タウンセンター」は、山形県北部の水田の広がる町の中心部に位置し、町役場、公民館、農協、小・中学校などの周囲に点在する公共施設の中心的役割を担う。福祉センターと文化センターという性格の異なる施設の複合であることと、これらを段階的に整備するという条件から、単純な2つのヴォリュームで構成した。

福祉センターのヴォリュームは敷地を広場と駐車場とに分節し、通り側で傾斜した屋根が文化センターへのアプローチになっている。他方、文化センターのヴォリュームはこれと直角に7.5mの高さに浮かせ、広場からピロティ越しに見える山々の眺望をフレーミングしている。この配列によって現在の町の構造をより明確に統合することを意図した。つまり福祉センターでは、住宅などの小さなヴォリュームが通り沿いにエントランスを向けて並ぶ配列が、人と物の動きのネットワークを制御していることに着目し、また文化センターでは、公共施設の比較的大きなヴォリュームが広場や駐車場を介して通りに平行な直線上に並んでいることに着目している。

また縮尺の大きい地図でこの町を見ると、水田の「地」に帯状の住宅地の「図」が浮いてみえる。おそらくこの町は、通り沿いに水田を浸食するように土地を作ってきたのであろう。ここではこの関係を反転し、公共施設の建ち並ぶ裸の土地の広がりに、敷地いっぱいの芝生の広場を設けた。敷地の東端には、隣接する屋内運動場と屋内プールに合同な高木のヴォリュームを植栽し、文化センターを支える様々な架構の柱とともに、ランドスケープを形成している。

これら2つのコンペ案では敷地にヴォリュームを配置することが、敷地内の領域の性格、建築や植栽や彫刻の配列、周辺の動線、眺望などをコントロールしている。言い換えれば、空間的に規定される情報を建築とランドスケープによって編集しているのである。この情報とは、例えばタイポロジーなどの形態の差異によって文化的に位置づけられる「都市のコンテクスト」といった情報ではなく、ヴォリュームの配列という即物的な水準が現代の都市を成立させている情報を切り取っていることに着目している。ここでは、建築はその内部空間だけでなく敷地やそれを超えた周辺環境に関わる情報を編集しており、逆に、ランドスケープは植栽の種類や幾何学的なパターン、敷地の高低差といった建築とのデザインのスケールの違いによってのみ捉えられるのではなく、それらを手段として現代の建築と都市に関わる情報を編集する可能性に着目しているのである。

(文責:安森亮雄)

平田町タウンセンター
平田町タウンセンター

主要道路沿いのヴォリュームの配置公共建築のヴォリュームの配置緑の分布
主要道路沿いのヴォリュームの配置
公共建築のヴォリュームの配置
緑の分布


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