[The University Museum]

デジタルミュージアム開催にあたって

林 良博 (総合研究博物館館長)

もしデジタルミュージアムが、 日本の貧困な博物館をそのまま放置するための装置として 期待されているのなら、 それはおよそ大学博物館には相応しくない無用の長物だ。 しかしそれが東京大学に保存されている600万点を超える学術資料の活用を、 さらに高めるための装置として機能するならば、 それこそ私たちが待ち望んでいたものに他ならない。

日本の博物館における貧困とはなにか。 学術資料の価値に対する無理解、保存スペースの狭隘化、 キュレーターの圧倒的な不足。数えあげればキリがない。 デジタル技術はしかしながら、 こうした問題点を誤魔化すための道具では決してない。 もっと豊かな、新しい博物館像を構築する技術として期待されているのだ。

いかなる時代にあっても、 大学博物館には膨大な数の学術資料があふれ、 それを基にした研究・教育が進められるであろう。 しかしその整理・保存は容易なことではなく、 利用者が資料を捜しだすことができないまま 「死蔵」されている事例が少なくない。 たとえ整理されていたとしても専門家しか検索できず、 汎用性が低いことが多い。 学術資料のデジタル化はこうした問題点を一挙に解決するであろう。

また学術資料の多くは、 たとえ細心の注意を払って保存したとしても劣化が避けられない。 資料をデジタルアーカイブすることによって、 半永久的にその情報を保存することが可能になろう。 さらにデジタル化された学術資料は、 閉じ込められていたガラスケースの中から時間と空間を超えて すべての人々のもとへ送ることが可能となろう。

東京大学総合研究博物館は、いままさに大胆な知的冒険の一つとして デジタルミュージアムを試行しようとしている。 私たちは、たとえ一時的に失敗したとしても、それを恐れない。 大学は真理の探究の場である。一時的な失敗は、 必ずやさらに大きな成功となって私たちに還元されることを 信じて疑わないからである。 


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