Digital Museum and BTRON
デジタル博物館とBTRON
電脳博物館で要求されるコンピュータとは
総合研究博物館新館1階展示場内部
電脳博物館では、デジタルアーカイブされた収蔵物やその情報を、
コンピュータを通して観覧者に提示する。
その際、単に文字情報や画像情報をパソコン画面に表示するだけでなく、
観覧者の操作に応じて対話的に表示を変化させたり、
デジタル技術を駆使した様々な演出が加えられる。
例えば、本デジタルミュージアムには、以下のような演出がある。
- 対話的な三次元グラフィックスによる仮想空間を使った展示、
- 展示物に近付くと、手持ちの携帯型端末にその説明を表示する、
- 展示の説明を個人の属性に応じて変更する適応化機能、
- 現実の展示物とそのデジタル画像を重ね合わせた展示、
- 博物館全体を一つのハイパーメディア空間と想定した展示
こうした演出を加えたコンピュータ展示を行う時に、
観覧者が見たり、直接手にしたり、操作したりするコンピュータは、
一般的には、パーソナルコンピュータや携帯型端末というものが相当する。
ところが、博物館において、上記のような演出のもとに情報を表示するためには、
以下の機能が要求される。
- ハイパーメディア機能
- 携帯型端末上での軽快な動作
- イネーブルウェア機能
- KIOSK機能
- 多国語処理機能
我々は、これらの要求を同時に満たす電脳博物館用コンピュータを、
BTRON上に構築している。
現在、
東京大学坂村研究室では、
トロン (TRON) プロジェクト
というコンピュータアーキテクチャを構築するプロジェクトを推進している。
BTRONとは、
トロンプロジェクトにおけるワークステーションや
パーソナルコンピュータのアーキテクチャのことである。
BTRONには、
実身 / 仮身と呼ばれるハイパーテキストの機能が備わっており、
それが、ファイルシステムとして、オペレーティングシステムに組み込まれている。
ユーザインタフェースもトロンヒューマンマシンインタフェース仕様に
のっとって統一されている。
また、多くの国の言語を混在して扱うための多国語機能や、
身体に障害があっても利用できるためのイネーブルウェア機能なども備えている。
ハイパーメディア
博物館が取扱うデータには、
文章、画像、立体形状データ、動画、音声など、様々な種類がある。
デジタルミュージアムで利用される端末には、
これらのデータを処理・表現できるためのマルチメディア機能が必要である。
また、これらのマルチメディアデータを整理して表示するための
手法の一つとしてハイパーテキストがあり、
これとマルチメディア機能を組み合わせたものは、
しばしば「ハイパーメディア」と呼ばれる。
BTRONには、
実身/仮身
と呼ばれるハイパーメディアの機能が、OSに組み込まれており、
特にその中のファイルシステム部とウィンドウシステム部が協調して実現している。
従って、現在は、World Wide Webシステムが提供しているような
ハイパーメディアの機能を、
BTRONでは既にOSの基本機能として搭載している。
携帯型端末
デジタルミュージアムでは、
展示物に近付くと手持ちの携帯型端末に展示物の説明を表示する
という説明手法をとっている。
逆に、その携帯型端末を持って展示物に近付くと、
携帯型端末に貯えられた個人情報を展示物側に転送し、
「展示」そのものが変化するという演出も行っている。
こうした説明や演出をする携帯型端末が備える条件としては、
テキストやグラフィックスが表示できることや、
無線通信が可能であること、端末用のソフトウェアの開発が容易であること、
画面表示や操作方法が博物館内の他のコンピュータと一貫していること
などが挙げられる。
これらの機能が、非常にハードウェアリソースの制限された
携帯型端末上で実現されていなければならない。
博物館携帯用PDA端末
BTRONはコンパクトなOSであり、
現在までに
携帯型端末上のBTRONがいくつか実現されている。
この携帯型端末用に実装されたμBTRONは、
約6MBの記憶容量があれば動作可能である。
またマイクロカーネル構造をしているため、
様々なアプリケーションに応じて、
OSの中から不要な機能を削除して最適化することも容易に行える。
デジタルミュージアムのオープンミュージアムの理念には、
「誰にでも」オープンという考え方がある。
「誰にでも」オープンということは、子供からお年寄りまで、
また身体に障害を持つ方にもオープンでなければならない。
つまり、来館者には当然身体障害を持つ方もいるため、
デジタルミュージアムで使われるコンピューターは
身体障害があっても利用できるような、
身体障害を支援する機能を持つことが要求される。
BTRONサブプロジェクトでは、
従来からイネーブルウェアと呼ばれる身体障害を支援する
コンピュータ技術の研究を推進しており、
現在市販されているBTRONには、
イネーブルウェア機能が
OSの基本機能として含まれている。
従って、BTRON上で開発された
アプリケーションプログラムは、この機能すべてを利用することができる。
KIOSK機能
博物館のような公共の場所に設置され、
誰もが情報を引き出して参照することができるようなコンピュータは、
一般にKIOSK端末と呼ばれる。
通常のパーソナルコンピュータやワークステーションをKISOK端末として利用すると、
コンピュータの細部までユーザが見ることができるため、
ユーザは、コンピュータ上でありとあらゆる操作ができてしまう。
情報検索のための画面と違うアプリケーションを立ち上げたり、
極端な場合はシステム破壊を行うことも可能である。
従って博物館に設置された情報端末には、
不必要なコンピュータの細部をユーザに見せない機能や、
また悪意のあるなしに関わらず、
ユーザのあらゆる操作からシステムを防御できる機能が必要とされる。
また、はじめてそのコンピュータに触れたユーザでも、
惑わされることなくシステムを利用できることも必要である。
これがKIOSK機能である。
そこで、現在我々がBTRON上に開発している
情報検索端末は、これらのKIOSK機能を完備させている点に特徴がある。
この端末では、
デジタルアーカイブサーバに集中的に格納されている情報を、
HTTPプロトコルで取得し、自動的にページ分割を行い、
ユーザが1ページ毎に簡単な操作で見ることができる。
また、通常の操作では、
その検索端末のソフトウェアを終了できないようになっており、
また危険な副作用を伴う操作は行えないように設計されている。
多国語処理
基本的に東京大学総合研究博物館には、
研究資料として高い価値を持ちかつ世界的に希少なものを収蔵している。
従って、博物館で収蔵・展示されるものは、
世界各地の様々な時代のモノが含まれている。
そうしたモノをデジタルアーカイブしたり、
また展示のキャプションや解説をコンピュータを通して行うような演出を考えた時、
そのコンピュータは、まさに世界中の様々な時代のあらゆる文字を
処理しなければならないという要求に直面する。
ところが、既存のコンピュータでは、まず我々母国語である日本語の漢字すら、
扱える文字数が少く、展示物の名称や所蔵者名が表現できない場合が多い。
ましてや、展示物の名称を、様々な国の現地の言葉で表現することなど、
現状では到底できないし、また現状のコンピュータでは
それが可能なアーキテクチャにもなっていない
(
バーチャルシンポジム参照のこと)。
これらの問題点を解決するために、
我々はBTRONに
多国語処理機能を組み込み、
その中でも特に漢字の扱いの部分に力を注いでいる。
現在、10万字の漢字を扱うことを目標として、フォント作成、
文字コードの割り当て、漢字入力エンジン等の
漢字処理の基盤のなる技術の開発に着手している。
デジタルミュージアムとBTRONの今後
博物館のコンピュータで開発された技術は、
単に博物館だけでなく、他の多くの場面でも有効である。
つまり、博物館で求められている技術とは、
マルチメディアで表現されるコンテンツを
一般不特定多数の人に高度な演出で対話的に提供する技術であり、
これは電子図書館や、医療情報提供システムなど、
マルチメディア情報提供が必要とされる他の様々な応用に
適用可能であると我々は考えている。
(越塚 登)
この展示内容に関する最新情報や関連資料等は、随時、
東京大学総合研究博物館のインターネットサーバ上の以下のアドレスで
公開、提供していきます。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/DM_CD/DM_TECH/BTRON/HOME.HTM
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